人を基準に環境対応
これまで30年余り、BPI社を率いてきた周錬は主に国際的な場で活動してきた。しかし、最近では招きに応じて台南県の風神廟、屏東県の恒春古城のライティングをデザインして、台湾に滞在する期間が増え、マスメディアに取り上げられるようになった。
新しいライティングを設置したことで、百年以上の歴史を誇る二つの古跡が新たに蘇った。多くの人は、彼のデザイン美学を「減光」と捉えているが、周錬はこれに反して照明デザインには従わなければならない原則はないという。台南と屏東で採用した減光だが、次回はこれとはまた別の手法を採用するかもしれない。
今年、北港朝天宮で行ったデザインは、確かに煌めくライトを多用している。色温度4000kのLEDライト300個近くを周囲に配置したため、夜になると闇に沈んでしまう朝天宮の屋根の精緻な装飾は、新しいライティングにより廟の前の通りからもマンションの上からも、その美を見られるようになった。こうして300年余りの歴史を誇る朝天宮の建築は、より立体的に華やかに見ることができるようになった。
周錬の手にかかると、光はかくも自在に操られるのだが、そのデザイン・プランは、すべて「人を基準に環境に呼応」を理念としている。周錬によると、ライティングデザインと言うと多くの人は照明技術と考えているが、人が光を感じる時、そこにはより多くの人の温もりが含まれるという。例えば子供時代の台風の夜、蝋燭を灯すと、淡い光に母の影が揺れたことがあった。この柔らかい光との偶然の出会いにより、母の姿が心に刻みつけられた。「光は単なる光ではなく、過去の記憶を内包しています」と、その言葉には光への洞察が含まれる。
台南の奇美博物館の主建築と展示スペースの照明デザインでも、出発点は同じである。周錬は、どうしたら建築の最良の面を表現できるのかと考えるのだが、その最良とは何なのだろう。「建築物を美しく照らすだけではなく、ハードの建築を越えて、文化社会的一面をデザインに盛り込みます」と周錬は語る。そこでデザインの主軸に台南人の誇りを据え、台南市民が夜に高速86号を走らせ、遠くに奇美博物館を眺めた時、誇りに感じられることを考えた。
恒春古城の再生においても、プラニングに際して幾つもの疑問が生じた。「現代の城は今でも城と言えるのか」「城壁は防御、門は閉鎖と開放の二側面があり、城門と人の生活は深く関っている」「建築物自身が生命を有する」とのコンセプトから周錬は収斂した減算のライティングを考えた。城門の通路に照明を置き、内を明るく外を暗くした視覚効果で、城門を通りながら故郷に戻る感覚を作り出した。夜が更けると、歴史ある城門も眠りにつき、わずかなライトが西門の額を照らすのみとした。
光から始まり、人を基準として、環境との関係を考察するというのが周錬のデザイン哲学で、そこには全体観が見て取れる。周錬のドラフト・ノートに、そのコンセプトが表されている。ノートに向かった彼は、これを相手側の向きに180度回し、慣れたタッチで逆向きに城門のデッサンを描き出した。その草木や煉瓦一つ一つと周囲の環境との視覚的必要性に合せて、ほかに動かしようのない確かな位置にライトを置いていく。こうした複雑な作業を見て、ある人がコンピュータを使わないのかと聞いてみたが、「その場に展開する光の環境は、ITの演算で調べられるものではありません」と答えた。
南から北へ、屏東、台南、雲林から台北の北門ロータリー、西区周辺道路計画、さらには2018年に台中で開催される2018台中世界花博覧会まで、そのすべての照明デザインに周錬が招聘されている。台湾のライティングデザインの新世代は、すべて周錬の影響を受けていると言われる。アメリカのライティングデザイン大手BPI社の会長職を退き、引退するはずだったのに、最近ではしばしば台湾での講演や講義のため、台湾に招かれている。一生をかけた照明デザインを、今度は台湾の若い世代に伝えようとしているのである。
そして、光について尋ねてみると、あたかも道を説くかのように答える。今は白髪となった周錬だが、若い頃に「老子道徳経」を愛読し、戦略を論じた「孫氏の兵法」や、宮本武蔵が剣の道を記した「五輪書」を座右に置いていた。その若い時代、人生の哲理や理念は分っていなかったかもしれないが、年月が過ぎ、生に流れ込んできたすべてを、周錬は光をもって表現している。
灯しては消す。周錬は自宅でもライティングのゲームを楽しむ。
灯しては消す。周錬は自宅でもライティングのゲームを楽しむ。
灯しては消す。周錬は自宅でもライティングのゲームを楽しむ。
灯しては消す。周錬は自宅でもライティングのゲームを楽しむ。
灯しては消す。周錬は自宅でもライティングのゲームを楽しむ。
手が届くものでありながら、幻のようでもある。感じることができれば人は光の存在を認識すると周錬は考える。
三百年の歴史を持つ北港の朝天宮がライティングで浮かび上が る。(周錬提供)
世界に知られる照明デザイナーの周錬は、向かいに座った人に説明するために、逆さのデザイン画をすらすらと描く。
人を中心に据え、環境に呼応する。周錬は、光をもって恒春古城の百年の歴史を照らし出す。(中強光電文化芸術基金会提供)
周錬の巧みな照明デザインにより、台南の奇美博物館は美しい光に照らされ、夜間でも壮麗な建築美を鑑賞できるようになった。(荘坤儒撮影)
周錬が照明視覚デザインを手がけた台南の奇美博物館を訪ねれば、世界的照明デザイナーである彼の人生哲学と光を追求する姿勢がうかがえる。
周錬が照明視覚デザインを手がけた台南の奇美博物館を訪ねれば、世界的照明デザイナーである彼の人生哲学と光を追求する姿勢がうかがえる。