東西融合の台湾水彩画
国立芸術専科学校(現在の台湾芸術大学)デザイン科に進学したが、プロの画家を志していた陳陽春は美術科の講義を傍聴し、傅狷夫、任博悟など当代の名家の指導を受け、評価されたことが自信につながった。講義の合間に、古書店で輸入の水彩画集を漁り、画風や技法を研究した。こうして不断に修練を続ける中で、陳陽春は中国の水墨画と西洋の水彩画を融合し、独自の台湾水彩画を作り上げた。
東西を融合した台湾水彩画の画風で、陳陽春は雲林の街角、淡水の夕焼け、スペインの古城などの魅力的な風景を描いた。陳陽春は加算技法の水彩画に水墨画の境地を取り入れ、湖上の帆影や中空の雲、鳥により、水や空を余白で表現し、画面を物で覆わないが、それで却って安定した調和を実現した。農村に育った幼少期の思い出、山林の美しさ、牛市の取引に見られる人と人との温かさが陳陽春の創作の養分となり、明るい色彩の中にも質朴な温かみを与えている。
土地の人や事物写生を好む陳陽春は、人物観察にも長けていて、風景だけではなく美人画もコレクターに好まれる作品である。陳陽春は美人画を描く時に、まずモデルの一番美しい角度を静かに観察し、その特徴を表す容貌やポーズを決める。ポーズや表情がどうであれ、陳陽春の筆になる美人は生き生きとして艶やかで、「美しく描くので皆が本人より本人らしいと言うのです」と陳陽春は笑う。その筆はモデルの美しさと青春を画紙に留めて、永遠の記憶となる。
風景画と美人画に加えて、陳陽春が描く宗教画も、一般にイメージされる神仏の絵画とは異なっている。神仏を描いた絵画の多くは、厳粛で荘厳な雰囲気を湛えていて、距離感を感じるものだが、陳陽春が描く観音菩薩、媽祖、達磨や済公は、どれも慈しみ深く親しみやすい姿をしている。なぜかと尋ねてみると、陳陽春は仏像を絵画にすることもあるが、多くは描きたい神仏にふさわしいモデルを選んで、その神仏に合う服装と小道具で描くのだという。たとえば済公像を描いた時は、霊媒となった友人に済公の容貌を尋ねてから、自身で済公の衣装を着て友人に写真を撮ってもらい、写真を基に描いた。本物のモデルで描いているので、その神仏の表情が自然で生き生きしているのも頷けると言えよう。