リーン生産方式を基礎に
インダストリー4.0はソフトを中心とするが、センサーやロボット、自動運搬車などを導入する前に、まずは製造そのものを見直す必要がある。「リーン生産方式」は、日本のトヨタ自動車の生産システムをもとにし、生産、物流、コストなどさまざまな面から、無駄のない流れの良い生産ラインを構築することで、コストを大幅に削減して生産効率と品質を高めるというものだ。
20年ほど前、台湾引興の王慶華董事長がリーン生産方式を導入し、他の業界とともにリーン・マネジメント・コンサルタント会社を設立した。台中市西屯工業区にある同社の工場に入ると、清潔感のある作業環境と整然とした生産ラインが目に飛び込んでくる。
同じ工作機械部品を生産する一般のメーカーでは、生産のリードタイムは2日ほどだが、台湾引興ではわずか4時間で完成・出荷でき、さらに2018年に完成した新しい生産ラインの生産時間は30分以下である。また、多くの工場では大量生産して倉庫に保管し、注文が入ったらそれを出荷しているが、台湾引興では顧客の注文を受けてから生産を開始し、それを出荷するまでの時間は同業者より速い。「私たちの工場は完全に在庫ゼロでやっていて、出荷待ちの製品を置いておく時間も2時間以内です」と王慶華は語る。
それほど精密な生産は、どのようなコンピュータソフトで管理しているのか、と問うと、王慶華の言葉にさらに驚かされる。「この工場の管理はコンピュータに頼っていません。それでもコンピュータより精確に管理できます」と。
工場に足を踏み入れると、王慶華は一つずつ謎を明かしてくれた。まず、リーン生産方式における「見える化(可視化)」管理である。見渡すと、工場内を20台の台車が行き来し、加工済みの半製品を次の工程へ運んでいる。「以前はこうした台車が200台もありました。たくさんあるので、皆は余裕を感じて作業をしていたのです。それを減らしてみたら、すぐになくなり、量も一目瞭然なので、緊張感が出てきました。さらに、この工場では『順序こそ最大の原則』としています。他の工場では、ミスが見つかってもラインを止めないように、次の製品に取り掛かりますが、ここではミスがあったら、完全に処理しなければ次の製品に手を出すことは許されないのです」と王慶華は最重要ポイントを語る。「これが目に見えない大きな張力をもたらします。誰もが、緊張感をもって集中して作業をするので、他人が管理する必要はないのです」これこそが台湾引興が誇りとする「順序生産」である。
また、多品種少量生産に対応するための工夫もしている。全台湾の300近い顧客を9つの地域に分け、同じ地域の顧客の注文を集中的に生産する。さらに、トラックは担当地域の顧客をバス路線のように巡回すれば一台で済むのである。
リーン生産方式が強調するのは「需要=供給」である。在庫はダムの水位のようなもので、水位を下げることで、さまざまな問題が表面化し、そこをさらに管理していく。生産工程、生産計画、人員、配送など、あらゆる面で付加価値を産まないムダ(移動や在庫など)を一つずつ排除していくのである。
「お金を使えば解決できる問題ではなく、お金では解決できない問題が重要なのです」と王慶華は言う。リーン生産方式で改善を進め、例えば新しい生産ラインでは、本来ならマシンに3000万元かかるところを、600万で同様の効果が出せるようにして大幅にコストを削減した。また生産ラインの動線を90メートルから22メートルに縮小し、生産リードタイムは2時間から30分まで短縮した。以前は生産ラインとリードタイムが長かったが、顧問からの提案で自動運搬車とバーコードを導入し、改善を重ねてきたのである。
王慶華はこう語る。インダストリー4.0を目指す中で、台湾の産業に最も欠けているのはスマート製造ではなく、一歩ずつ着実に進めるという態度だと。ロボットに任せるとしても、管理するのは人なのだから、やはり基本に立ち返らなければならない。標準化された作業工程を確立し、リーン生産方式で管理して究極まで改善し、その後で適所でグレードアップを進めてこそ、グレードアップの意義があるのだと語る。
学生が企業で実習するだけでなく、企業が学校に設備を提供することで産業に役立つ学習環境が整う。