金曜日の早朝、私たちは呂加零さんと蕭俊彦さん夫妻が経営するペットショップ兼ペットホテル「緑蹼猫旅館」を訪ねた。ゼロ·ウェイスト（ごみゼロ）生活をする二人は、歯磨きには電動歯ブラシと重曹を使い、トイレではビデとガーゼを使う。朝食は自家製のヨーグルトと淹れたての紅茶。続いて食材の買い出しには容器とカゴを持って出かけ、液体の油も固体の野菜も、すべて用意した容器に入れる。昼食には環境にやさしい方法で作られた食材を使う。

ペットショップ兼ホテルの開店時間になった。店内にあるフードは量り売りで、ネコ砂は繰り返し使えるタンクの詰め替えだ。二人は夕方になると農場へ行って新鮮な牛乳を瓶に詰めて持ち返り、ネットで注文した顧客が受け取りに来る。続いて二人は一緒に夕食を作り、風呂では自家製のレモンシャンプーで体を洗う。こうして一日、茶葉や果物の皮を堆肥にする他には、本当にゼロ‧ウェイストなのである。

物質を追求する生活にストレスを感じていた呂加零さんは、ゴミを出さないゼロ･ウェイスト生活を始めてから暮らしはシンプルになり、気持ちも明るく自由になったと言う。

勇気を出して大冒険

ゼロ‧ウェイスト生活を始める前、呂加零さんはショッピングが大好きだった。海外旅行に行く時も、ネットショッピングした品物を旅先のホテルに届けてもらい、その量が多いためにスーツケースを買い足すほどだった。

そんな彼女がゼロ‧ウェイスト生活を始めたのは2016年、朝食を食べながら友人のSNSの文章を読んだことがきっかけだった。そこには容器を持って朝食を買いに行ったという内容が書かれていて彼女は大きな衝撃を受けた。自分の食卓の上は使い捨ての食器ばかりで、これらのゴミはどこへ行くのだろうと思ったのである。そして澎湖島で開かれたビーチ·クリーン活動に参加したところ、浜には拾いきれないほどのゴミがあり、ゴミを出さない暮らしを始めようと心に決めた。

最初の頃は夫と意見が一致しなかったが、穏やかな性格の夫は無理して合わせてくれた。夫が恥ずかしがって容器を持っていかないので、買い物は彼女が行くようにし、両親と一緒に市場に行く時も彼女が容器を準備して商品を詰めた。「ゴミを減らしたいのは自分なので、人に強要することはできません」と言う。

夫がファストフードを食べたいと言えば、店員に頼んでハンバーガーとポテトを弁当箱に入れてもらい、店内で食べた。一人でなければ勇気も湧いてくる。そうした中、夫の蕭俊彦さんが容器を持ってフライドチキンを買いに行くと、店主がそれを喜び、チキンを多めに入れてくれたことがあり、それがきっかけでゼロ‧ウェイストに協力的になった。家の猫には袋入りのフードではなく、生肉を与え、糞は木屑と合わせてコンポストで堆肥にして土に返す。彼女の家から出るゴミの量は、2人に猫7匹で月に104グラムだという。

ペットショップ兼ホテル「緑蹼猫旅館」で扱っているのは、すべて詰め替え用の商品だ。

一人なら速いが、大勢なら遠くまで行ける

ゴミを出さないために、彼女は習慣も変えた。壁のタイルには食材の在庫が書いてあり、なくなってから買いに行く。

多くの人にゼロ‧ウェイストのエコロジー‧ライフを知ってもらおうと、彼女はネット上で「零廃棄（ゼロ‧ウェイスト）教会」を発足し、友人から教祖と呼ばれるようになった。ゼロ‧ウェイストはプラスチックを敵視するのではなく、繰り返し使うことが重要だと考え「使えるものは資源、使えないものは高価なゴミ」と考える。彼女はオンラインの仲間に、家の中で不要なものは必要な人に贈るよう呼び掛けている。そのために店頭に空間を設置し、自分は使わないが、まだ使えるものを物々交換できる場にして、メンバーが利用できるようにしている。

また、牛乳のボトルや紙パックの浪費を解決するために、彼女はガラス瓶を重複して利用してくれる農場を探し、皆で共同購入することにした。記録をつけている彼女によると、2018年から今までに80回以上共同購入をしていて、これによって2リットル入りのボトル1000本以上が無駄にならなかったことになる。

呂加零さんは『零廃棄的美好生活（ゼロ‧ウェイストの素晴らしい生活）』という本も出した。ゴミを出さないために暮らしを変え、自分を見つめなおしたプロセスが書かれている。

ペットショップの方では、以前は少しでも利益を出そうとさまざまなペット用品を扱っていたが、今では本当に必要なのか、買いたいだけなのではないかとお客に訊ねるようになったと笑う。ゼロ‧ウェイストで余計な消費をしなくなり、好きなことを学ぶ時間も増えたという。

全力でゼロ･ウェイスト生活に取り組む呂加零さんと蕭俊彦さんは、動物病院に行くときも薬用の容器を持っていく。また店先の空間を物々交換の場として提供し、リサイクルを促している。

なりたい自分になる

場所を移し、広さ9坪のアパートを訪ねた。玄関から見渡すと、台所と居間と寝室が一つの空間に収まっている。間仕切りのないその小さな空間は整頓されていて明るく、グリーンは手入れが行き届き、壁には写真が貼ってある。ここは医者夫婦である尚潔さんと楊翰選さんが暮らすゼロ‧ウェイストの家だ。

ゼロ‧ウェイストを始める前、尚潔さんはインターンとして病院で病や死と向き合い、大量の論文を読まなければならず、夜勤もあり、忙しすぎて心に虚しさを感じていた。そんな頃、ネット上でベア·ジョンソンの著書『ゼロ·ウェイスト·ホーム』を読み、それまでのモノへの執着を捨てて人との交流や学習の意義を見出すゴミを出さない生活の意義を知った。「それは物質的な豊かさから得られる喜びより長続きするものです」と尚潔さんは言う。ゼロ·ウェイスト生活は環境のためだと考えていたが、より喜びをもって生きることもできるようになるという。スイッチが入った彼女は、この発見を多くの人とシェアし、さらに著者に版権について問い合わせ、台湾の出版社を訪ね歩いて出版を交渉した。こうして忙しいインターン生活の中で『ゼロ·ウェイスト·ホーム』の中国語版を翻訳したのである。

尚潔さんは翻訳しながら内容を咀嚼し、その提言を実践していった。マイボトルやエコバッグを持ち歩き、繰り返し使える生理用品を使うようになり、従来の習慣を変えていった。「まずはできることから始め、少しずつ広げていくことです。コーヒー好きは、マイボトルを持ち歩けばゴミを捨てる手間も省けます」と言う。楊翰選さんは、衣食住のすべてを一度に変えるのは、かえってプレッシャーが大きすぎると言う。

呂加零さんは、残った食材の在庫をタイルにメモしておき、なくなったら買いに行く。環境にやさしい方法で育てられた農作物をおいしく調理し、無駄にすることはない。

本当に必要かどうか

2016年にゴミを出さない生活を始めて以来、尚潔さんと楊翰選さんは、結婚、転居、親の死、出産、育児など、人生の大きな転機をいくつも経験したが、その間も常にゴミを減らす努力を続けてきた。例えば結婚式では、尚潔さんはお色直しをせずに白いドレスで通し、楊翰選さんは古いスーツを250元かけて直して着た。披露宴出席者には容器を持参してもらい、食べきれない料理は持ち返ってもらった。引き出物も自分たちで縄を編んで作ったバッグに地元の果物を盛りつけたものだ。こうして二人は知恵を絞り、ゼロ·ウェイストの結婚式を実践した。

だが、二人はただゴミを出さないことにこだわっているわけではない。需要の本質に立ち返り、本当に必要なものしか買わずにゴミを減らすということだ。例えば、出産後の産褥パッドには、家にたくさんあるタオルを用いた。ゼロ‧ウェイストが難しいと言われる育児においても、楊翰選さんは「ゼロ‧ウェイストは難しくありません。難しいのは育児そのものです」と言う。本当に必要なベビー用品をじっくりと吟味し、なるべく繰り返し使えるものを選ぶ。おむつは優先的に中古品を買うか、手作りする。古い哺乳瓶に金属の蓋を組み合わせれば手作りの鈴ができる。

尚潔さんと楊翰選さんがじっくり考えて配置した家の中。買ったものも手作りしたものもあるが、どれも工夫が感じられる。

シンプルな喜び

夫妻はそれぞれ西洋医学と中医学の医師だが、高級マンションに住むのではなく、必要な広さや交通の便などを考えて小さなアパートを借りた。タンスは二人で冷静にニーズを考えて、2か月かけて探し、最終的にはラックと棒を組み合わせて二人が理想とするオープンな衣装スペースにした。道端で拾った木の枝は、きちんと整えて居間の装飾品にした。一つひとつ考え抜いた住まいで、二人はそのプロセスと達成感と喜びを味わっている。「ひとつ皆さんにお伝えしたい考え方があります。職業や年齢によって社会が期待する所有物を手にするために苦労する必要はなく、喜びはもっと容易に身近なところで手に入るということです。安心して住める場所があり、家族や友人がいて、好きなことがあり、時には人に喜びをもたらす余裕がある。それが真に幸福なことなのです」と尚潔さんは言う。

中医学のクリニックで働く尚潔さんは、外来診察のスケジュールをいっぱいにせず、文章を書く時間を作っている。今年は『没有垃圾的公寓生活（ゴミを出さないアパート暮らし）』という本を出し、二人が続けてきたゼロ‧ウェイストのための練習を紹介した。まず、ハンカチと食器、カップ、容器、エコバッグの5つを持ち歩いて一日を過ごしてみることから始める。これらを持っていなくても、あわてて買う必要はない。周囲の人に聞いてみれば思いがけない収穫があるかも知れないからだ。

「ゼロ‧ウェイスト‧ライフは一歩ずつ小さいことから始めるもので、長く続けていれば自信と勇気が湧いてきます」と言う。環境のためという大きな使命を背負う必要はなく、単純に、より良い自分になり、シンプルな生活の喜びを味わえるというだけで試してみる価値はありそうだ。

尚潔さんと楊翰選さんは自分の内なる声に耳を傾け、物質の追求をやめて自分たちが理想とする生活を送っている。

容器や食器を持参することがゼロ･ウェイスト生活の最初の一歩となる。（尚潔さん提供）