今年3月14日の午後、台北市華山の芝生の広場に、白い服を着た人々が100人も集まった。大人も子供もいる。白いシートに白いバスケット、白い風船が飾られ、お酒や飲み物のボトルまで白い。通りかかった人々は、いったい何をしているのか、と興味深そうに見ている。
これは、ピクニックの達人、璐露野が呼びかけた「ホワイト・ピクニック」だ。服装だけでなく、用具や小物もすべて白で統一されている。
「たかがピクニックではないか。これほど大げさにする必要があるのか」と、疑問を持つ人も少なくないだろう。だが、ここ数年、多くの人がこうしたお洒落なピクニックを楽しむようになり、ブームが巻き起こっている。ビニール袋に食べ物を入れて持って行くだけの昔のピクニックとは違うのである。
「ピクニックは一つのライフスタイルです。少し工夫するだけで、暮らしは豊かになります」と璐露野は言う。ピクニックには良し悪しなどなく、一つの選択にすぎず、誰もが自分らしいスタイルで楽しめばいいという。
ピクニックはライフスタイル
璐露野の本名は顔紹安。幼い頃から両親と一緒にキャンプやピクニックを楽しんでいた。「子供の頃の最大の楽しみは、目的地に着いたら普段は食べられないおやつが食べられることで、それが最大のご褒美でした」と言う。
大学で服飾デザインを学んだ璐露野は美学を追求するようになり、海外のサイトでピクニックの写真を見て台湾とはずいぶん違うことに気付いた。「外国のピクニックは広告写真のように美しいのに、なぜ私たちのピクニックはごちゃごちゃしているのだろう」と考えた。
ロマンチストの彼女は、これをきっかけに新たな世界に踏み込んだ。まず綺麗な生地を買って初めてのピクニックマットを作った。それから友人に頼んで海外からピクニック・バスケットを買ってきてもらい、それにさらに手作りの装飾を施した。以来、ピクニックに行くたびに、手を抜かず、万全の準備を整えるようになった。
ピクニックのスタイルが向上するにつれ、璐露野は自分が工夫を凝らして用意したピクニックランチの写真をネットで公開し始め、同じ趣味を持つ人々が集まってグループが形成された。娘の名前である璐璐と露営(キャンプ)と野餐(ピクニック)から一文字ずつ取ってフェイスブックのファンページ「璐露野生活」を立ち上げたところ、ファンの数は瞬く間に1万人を突破し、璐露野の名前も広く知られるようになった。
グループが形成されて以来、彼女はしばしば仲間をさそって一緒にピクニックに行き、お互いに料理やセッティングなどを学び合い、さらに多くの創意やアイディアが生まれるようになった。そして、さまざまなテーマを設けたピクニックも始まったのである。
テーマのあるピクニック
璐露野はさまざまなテーマのピクニックパーティを試みてきた。レトロ風、台湾風、旧正月ピクニックなどで、その中で最も盛大に行われ、評判になったのが「ホワイト・ピクニック」だ。
ホワイト・ピクニックは1988年にフランスで始まった。主催者は、ピクニックができる場所の制限を打破したいと考え、わざとノートルダム大聖堂やコンコルド広場といった公共のスペースを選び、警察に撤去を求められた時、別の場所に集合しやすいよう、参加者は白い服を着てくるように呼びかけたのである。以来、ホワイト・ピクニックは伝統として続けられている。毎年6月の夏至の日に行われ、参加者は1万人に達することもある。このイベントは今では世界の40余カ国で行われており、台湾でも2013年に璐露野の呼びかけで初めて行われた。
璐露野のネットでの人気が高まり、ホワイト・ピクニックには数百人が集まった。ただ、台湾では6月は暑すぎるため、春と秋の2回行なうことにした。2014年10月の第3回ホワイト・ピクニックは大いに盛り上がり、白い馬を連れてくる人までいて大きく注目された。
ホワイト・ピクニックは台北の他に台中の草悟道や台南の長栄大学などでも行われ、一大ブームが巻き起こった。だが、ピクニックのテーマは「ホワイト」の他にもいろいろと考えられる。
例えば、暑い6月には屋外での活動はしたくないと思うが、涼しげな南洋風ピクニックならどうだろう。「南洋の料理は実はピクニックにふさわしいのです。タイのパパイヤサラダやベトナムの春巻きなどは、持ち運びにも便利で、冷めても味は変わりません」と璐露野は言う。涼しげなワンピースに麦わら帽子をかぶり、バナナの葉に料理を並べ、象の図案の入った装飾品を飾り、タイのミルクティや冷たいココナッツジュース、フルーツなどを用意すれば、暑さも吹き飛ぶ。
肌寒い冬の日も、暖かい服装をして、保温ボトルに熱々のスープを用意し、さらに梅酒や日本酒を持っていけば桜の花見もできる。「台湾は他の国より気候に恵まれていて、一年を通してピクニックが可能です」と話す璐露野によると、夏は夕方の4時過ぎに出発すればそれほど暑くなく、冬は早めに出かけて暖かい日差しを浴びることができる。台湾は冬でも雪は降らず、桜や梅が花を開いて目を楽しませてくれる。
璐露野は子供を持ってからピクニックに行く回数がさらに増え、週に2~3回はピクニックを楽しんでいるという。屋外で子供とともに過ごすだけでなく、料理の準備なども一緒に行えば、現代教育で重視される食育や美学、社交などの実戦にもなる。「親子で一緒に料理をしてテーブルセッティングをするのは楽しいひとときです」まるで姉妹のような璐露野と娘さんとの関係も、ピクニックを通して培われたものだ。
ピクニックの場では、スマホばかりいじっている人はあまり見かけない。大人と子供が一緒に凧揚げをしたり、フリスビーで遊んだりして、リラックスできるのである。
スタイルを生み出すコツ
だが、璐露野のサイト上の美しい写真を見て、そこまで時間をかけて準備することはできないと思う人もいるだろう。そこで彼女は自分の経験から、ピクニックランチを簡単に用意するいくつかの基本原則を提案している。
まず、ピクニックのテーマを決めることだ。家族や子供とのピクニックなら、あまり深く考えず、季節や天気や場所からテーマを決め、全体のトーンを定める。
例えば海辺でのピクニックなら、ビーチスタイルというテーマにすればよい。「一つのコンセプトを中心に準備すれば、ちぐはぐな状態にはなりません」と言う。もう少し手間をかけるなら、レトロ・スタイルやホワイト・ピクニックといったコンセプトでも良い。重要なのは最初に明確なテーマを決めることなのである。
テーマが決まったら、服装や料理はそのテーマに沿ったものにする。台湾風なら、台湾の庶民の象徴である白と青のサンダルを履き、滷味(肉や豆腐の醤油煮)、台湾風から揚げ、腸詰などに台湾ビールを用意すればいい。台湾風というテーマなら、市場で使われる赤と白のビニール袋を持って行ってもおかしくない。
テーマの他に、ピクニックにはいくつかの原則がある。熱々でなければおいしくない料理や汁気の多い料理、それに刺身などは避けた方がいい。果物は簡単に準備でき、皆が好きなので必ず持っていきたい。
ピクニックバスケットも用意した方がいい。場所や天候によっては、虫除けや日焼け止めなども必要になる。また、璐露野が特に持って行った方がいいと考えるのはウェットティッシュだ。「子供は遊んであちこち汚すし、飲み物や食べ物をこぼすこともあります。それに、最後に食器類を拭いたりする時にも使えますから」
長年のピクニック経験を多くの人とシェアするために、璐露野は今年、『一起去野餐(ピクニックに行こう)』を出版した。これが大きな反響を呼び、北部、中部、南部でサイン会が次々と開かれ、テレビ出演の依頼も絶えない。まさにピクニックの女王となったのである。
有名になった璐露野だが、ピクニックの最大の収穫は人との交流だと考えている。古い友人と語り合うもよし、新しい友人を作るもよし、それらが暮らしに新しい喜びをもたらす。
ピクニックを通して暮らしを豊かにする。ほんの少し工夫することで、平凡な食事がまったく違う体験になる。ピクニックバスケットを手に、達人の足並みに従い、一緒にピクニックの魅力に触れてみようではないか。
世界で行われている「ホワイト・ピクニック」が2013年から台湾でも行われるようになった。緑の大地に真っ白い服装が映えて都市の景観も美しくなる。
台北市信義区の四四南村で行われたピンクをテーマにしたピクニックパーティ。
ピクニックはさまざまな屋外活動と組み合わせることができる。写真は2014年の秋に新北市で開かれた「435ピクニック音楽フェスティバル」(新北市文化局提供)。
ピクニックはさまざまな屋外活動と組み合わせることができる。写真は2014年の秋に新北市で開かれた「435ピクニック音楽フェスティバル」(新北市文化局提供)。
ピクニックのテーマを決めて小物もそろえれば、それだけでお洒落なスペースができる。(遠流出版公司提供)
ピクニックのテーマを決めて小物もそろえれば、それだけでお洒落なスペースができる。(遠流出版公司提供)
ピクニックのテーマを決めて小物もそろえれば、それだけでお洒落なスペースができる。(遠流出版公司提供)
夏の暑さが厳しい台湾では、蝋燭を灯して夜のピクニックを楽しむのもいいものだ。