新たな人物像を
撮影クルーと言えば、台湾ではベテランがそろうのが普通だが、『通霊少女』で陳和楡と劉瑜萱は、平均年齢30歳以下の若手を率いて奮闘した。台湾の映像産業の実力と若者の創意を世界に示したかったからだ。
2013年の『神算』から2016年の『通霊少女』撮影開始までを陳和楡はこう語る。廟や霊媒といった題材は、馴染み深いようで実は詳しく知らず、それを扱うのは台湾では新たな試みだった。また前例がないからこそ、さまざまな表現方法が考えられた。例えば死者の霊魂をどう表すかについても、アニメ化する、人が演じるなど、いろいろ模索してみた。「でも結局は原点に戻りました」最初に心を動かされたもの、それは「霊媒師も懸命に自らの人生を送っている」という事実だった。そこで霊魂には重きを置かず、人物像やその思いを丁寧に描くことにした。主人公は学業と恋心に悩みながらも霊媒師として信徒それぞれの迷いを引き受け、道を指し示す。「人生は無常であり、今を懸命に生きるべき」と作品は語る。
そんな人物像にふさわしい俳優をと、劉瑜萱は台湾のテレビや映画を見て探した。そしてカメラテストを経て、郭書瑤、蔡凡熙、李千娜、黄仲崑などの出演が決定、金鐘賞受賞者、ベテラン芸能人、インターネットセレブリティ、舞台俳優などが顔をそろえた。16歳でデビューし、家計を支えてきた郭書瑤は、芸能界で10年のキャリアを持つというのに純真さを失わず、ちょうど主人公、謝雅真の人柄や人生を彷彿とさせた。それがヒロインに選ばれた理由だ。
抜擢を知らされ、郭書瑤は『神算』を見て役柄を研究した。だが陳和楡は、『通霊少女』の主人公には別の人物像を期待していた。『神算』の主人公とは異なる、ましてソフィアでもない、郭書瑤自身から生まれた人物をと。
火が怖い郭書瑤だが、恐怖心を克服し、厄払いの儀式で火のついた霊符を持つシーンを演じたり、トランス状態で重い剣を振り上げ、髪振り乱す様を演じた。それまでの可憐なイメージも捨ててショートカットにし、よだれを垂れて居眠りしたり、大口開けてあくびをする主人公を演じた。
陳和楡にとって、感情表現はドラマの核心であり、俳優が役になりきってこそ人の心打つ。台湾のテレビドラマでは、相手役がカメラに写らない時、俳優はスタッフ相手に台詞を話すのが常だった。だが陳和楡のドラマでは、写らない相手役も演じたし、シーンごとにまず出演者と内容について話し合い、出演者から意見を出させた。出演者はいつも全身全霊で感情を込めることを要求された。
陳和楡は俳優を観察し、撮影開始前にトレーニングを加えた。主演男優となった新人の蔡凡熙は人物の思いを読み解くのが苦手だった。そこで演技レッスンを受けさせたほか、郭書瑤と二人でデートさせ、その際に100の質問を出し合うことで二人の関係を深めた。先輩の郭書瑤を相手にする演技は、蔡凡熙には大きな挑戦だったが、周囲に鍛えられ、感情を込めた演技ができるようになった。何允楽という健康的な男子高校生の役柄を彼は完璧に理解して演じたと、郭書瑤も賛辞を送る。
出演場面の少ない役でも陳和楡と劉瑜萱はこだわった。霊に取りつかれた男性が剣を振り回すシーンがあったが、やせ細った風貌が必要だった。そこで金枝演社劇団の施冬麟に出演を依頼した。舞台経験の豊かな彼はみごとに演じただけでなく、郭書瑤の剣術演技の指導までしてくれた。また、台北芸術大学映画創作学科の講師・陳家逵や台湾大学演劇学科の副教授・姚坤君も友情出演するなど、ジャンルを超えた出演となったし、カメラが回れば全力投球する彼らの演技はテレビ界に良い刺激をもたらした。