泥にまみれてはいても
それらの実践として、阮劇団は2009年から「草草戯劇節(演劇祭)」を催している。劇団のある嘉義県のパフォーミングアート・センターで青少年が舞台に上がる機会を提供するものだ。第1回は嘉義の高校5校から演劇部が集まり、劇を披露した。その後は範囲を広げ、毎年10月、演劇に興味ある人を対象に、阮劇団が組んだ演劇コースで半年間学んでもらい、最後には作品を作って、翌年春の草草戯劇節で公演を行っている。
参加した多くの青少年は、演劇を通して自らの肉体の可能性を広げ、新たな自分を発見している。例えば、恥ずかしがり屋だった女子大生は、ニンニクを演じたことで、目立たないニンニクも料理の味を大きく左右する大切な役割を持つ事を知り、自信が持てるようになった。またある親は、自分の子供が懸命に役柄の解釈に取り組み、演劇で考えを表そうとするのを目の当たりにしたおかげで、子供を理解できないと嘆くのではなく、より多くの時間をさいて彼らの言葉に耳を傾ける大切さを知ったという。
成果を積み上げ、草草戯劇節は規模も次第に拡大し、今では演劇、映画、マーケット、パフォーマンス、文化講演もある一大文化イベントとなった。春には何十もの芸術団体が集まり、2週間のべ5000人以上の観客を前に公演を行う。
汪兆謙のこれまでの観察によると、観客の多くは近隣の町から来る人で、交通の便の悪い地域に住む人が嘉義県パフォーミングアート・センターにまでやってくることは少ない。辺鄙な地域に住む子供たちはおのずと芸術に接する機会を奪われているのだ。そこで阮劇団では、いっそ自らが地方に赴けばいいと、2011年から「小地域での公演プロジェクト」を開始、嘉義に70校余りある、児童数100人未満の僻地の小学校で公演を行う。
自費で1年かけて山や海辺の15校を回る。このペースだと小学生が卒業までに1度は劇を見られるというわけだ。児童は地域の地図を描く授業も受ける。自分たちの暮らす環境がいかに特色豊かなものか知ってもらうためだ。こうしたささやかな試みで、子供たちが笑顔をたやさず、心に芸術の種を育ててくれればと、汪兆謙は願う。
芸術が社会に影響力を持つと信じてきた汪兆謙は、人と演劇の距離をなくしたいと考える。「劇場は人と出会う場であり、ふれあいには楽しい事がつきものです」観劇の楽しさを8歳から88歳までの人に知ってもらうのが阮劇団の願いだ。
異なるジャンルとのコラボも試す。九天民俗技芸団とともに嘉義と台中を行き来して、太鼓と演劇の交流を披露する。今年は主に九天の団員による、自分たちの物語を描いた実験創作劇『禁区』を演じた。
『マクベス』の成功により、流山児祥との2作目も進行中だ。今度は阮劇団による脚本で、互いの散らす火花がさらに大きな成果を生むだろう。
嘉義に根を張る阮劇団は、その地から養分を汲み上げ、情熱や力を世界に示す。汪兆謙はこう語った。「この地を踏みしめる我々は、泥だらけで、あまり美しいとは言えないけれど、リアリティは十分です」
フィールドワークとドキュメンタリー、演劇という表現を融合させた『家的妄想』は阮劇団のもう一つの新たな試みである。(阮劇団提供/黄煚哲撮影)
毎年春に開催される草草演劇祭は、嘉義の文化の一大イベントで、各地から多くの人がやってくる。(阮劇団提供)
阮劇団は僻遠地域での公演も実施しており、田舎の子供たちに演劇や芸術に触れる機会をもたらしている。(左は阮劇団提供、右は蔡坤劉撮影)
阮劇団は僻遠地域での公演も実施しており、田舎の子供たちに演劇や芸術に触れる機会をもたらしている。(左は阮劇団提供、右は蔡坤劉撮影)
地域に深く根を張る阮劇団は、若い世代の創意や情熱を取り入れ、老若男女の心をとらえている。
地域に深く根を張る阮劇団は、若い世代の創意や情熱を取り入れ、老若男女の心をとらえている。(林格立撮影)