山林を守ることが機会につながる
かつて東森テレビで先住民集落を紹介する番組「台湾部落尋奇」のディレクターとして台湾各地を巡り、原住民議事連盟の理事長も務める根誌優は、自分の故郷はどこよりもリソースが乏しく、貧しいことに気づいた。だが、「私たちはわずかな土地も漢民族に売ることなく、完全な山林を守ってきました」と誇らしそうに語る。
「しかし、かつて林務局の政策は林地内の木一本、草一本にも触れてはならないというものでした」と根誌優は声を大きくする。「私が子供の頃、集落の人々は林務局を『阿問』(魔物の意味)と呼んでいました。というのも、原住民保留地と林班地は隣り合っていて、間違って木を一本でも切ろうものなら違法とされて、問題が絶えなかったのです」と言う。
2018年、林務局とサイシャット族は和解を意味するパートナー宣言に署名を交わした。2019年には山林共同管理の理念に基づき、サイシャット族が委託されてパトロール隊「森林軍」を結成し、大湳林道と蓬莱林道、加里山をパトロールすることになった。違法伐採を防止し、森林の環境を整備するためで、住民の就労機会にもなった。
そして当時の林務局長・林華慶が「林下経済」プランを打ち出した。「林下経済」とは、森林の副産物であるシイタケの原木栽培や養蜂によって山地住民の収入を増やそうというもので、林業試験所や林務局の各分処にこれを指示した。
これが山地に暮らす人々の目を覚ました。「養蜂はもともと私たちサイシャット族の生活の一部で、どの家にも巣箱が一つありましたが、この30年、暮らしが変わり誰も養蜂をしていなかったのです。林下の産業を発展させるという計画は、自然環境を破壊したくない私たちを惹きつけ、自然生態を活用して集落の生産高を上げられることに魅力を感じました」と根誌優は言う。
2018年、根誌優は集落の9人の住民(彼は家族と呼ぶ。皆どこかで血がつながっているから)を集め、まず明徳養蜂場へ研修を受けに行った。新竹の林区管理処が伐採した木材で巣箱を手作りし、一人一箱から開始した。それが現在は12の養蜂場が新竹県五峰郷と苗栗県獅潭郷のサイシャット族が暮らすエリアに広がり、2019年に養蜂班の収入は100万元に達した。
山深く雇用の少ない集落に、林下経済が新たなチャンスをもたらした。「林下経済の生産販売組合には現在50名が参加し、毎月新人が加わるだけでなく、若い人も集落へ戻ってくるようになりました」と蓬莱村村長の章潘三妹は言う。
40歳の根靖慧もそうした中の一人だ。山に暮らす祖母の世話をするために長庚病院の看護師の仕事を辞めて戻ってきたが、ここに雇用はない。そこで父の養蜂を引き継ぎ、1つだった巣箱は20まで増え、生計を立てられるようになった。
苗栗県南庄蓬莱地域の森林で採れる蜂蜜は、季節の変化や養蜂場の違いによって風味が異なる。大自然の森の味わいだ。