今年4月、台北市の中心部、八徳路四段のオフィスビルの中にCLBC大船艦店がオープンした。フロアの周囲には8つの独立した空間があり、そのうち一つは会議室、残りは独立したオフィスである。仕切りの壁はガラスなので、一目で全体を見渡すことができるが、カーテンを引けばプライバシーを守ることもできる。
中央には二つの広いスペースがあり、机と椅子が並んでいて自由に使うことができる。
そのうち200人以上収容できる空間は、普段は入居者のコミュニケーションや交流に使われ、イベントに貸し出せば、入居者と外部との交流の機会も増える。
目標は若者の起業
CLBC大船艦店にはシャワールームもあり、徹夜の作業でも一息つくことができる。バーカウンターもあり、コーヒーや軽食を提供しているので、顧客との打ち合わせなどにも使える。
これより早く、2年前にMRT大安駅の近くに設立したCLBC大安店は、古い建物を改装した快適なスペースだ。ここの重点は、中華電信に申請して設置した100Mbpsの光回線で、これによってCLBCは文字通り台湾初のデジタル産業のためのコワーキングスペースとなったのである。
CLBCの経営チームは、なぜこのようなシェアオフィスを設けようと考えたのだろう。
2年余り前、慶隆商社の林慶隆・董事長はビジネスセンターを設けたいと考えていたが、林育正・総経理は、台北にはすでに数多くのビジネスセンターがあるため、ワーキングスペースを運営するなら若者をターゲットにするべきだと考えた。
林育正はかつてゲーム会社の起業過程に関わったことがあり、その経験から、若者にとって会社設立のプロセスは複雑で、ビジネスセンターにスペースを借りる費用は高く、起業に成功するかどうかも分からない段階では負担が大きすぎることをよく理解していた。
「マーケットには、若者の起業にふさわしい場所が必要です。高速インターネットが使え、快適なデスクがある場です」こうして、コワーキングスペースの構想が生まれた。
デジタル産業のための空間
CLBCが設立した二つのコワーキングスペースは、いずれも交通の便の良い都心にある。林育正は、交通の便はワーキングスペースの重要な要件だと考えている。また、不動産価格の高い台北市では家賃も高く、土地に余裕のある地方に比べると、シェアオフィス空間のニーズも高い。
林育正によると、台北のビジネスセンターでは1スペースの単価が1万2000元に上り、オフィスを借りようとすれば家賃は最低8万元かかる。それに比べ、若者をターゲットとするCLBCでは入居費を低く抑えている。
MRT大安駅に近い大安本館の場合、固定席で月額6000元だが、申込者が引きも切らず、当初は30坪だったスペースを100余坪まで拡張した。八徳路四段の大船艦店は、固定席が月8000元(現在2割引き)、8~10人が利用できる個室が月4~5万元で、全席入居済みである。
林育正によると、最初は海外の事例に倣って月額で万単位の料金を設定したが、その時は入居を申し込んできたのは外国人ばかりだった。
その後、市場調査をして台湾市場で受け入れられる月6000元という料金を設定した。オープンから半年の大船艦店ではすでに料金を引き上げたが、割引サービスで入居者をひきつけている。
起業は夢ではない
割引はしているものの、CLBCの料金は業界では最も高い。林育正は、相場を崩してはならないと考えているのである。
「起業を目指す若者の多くは、何もかも社会が無料で提供してくれるべきだと考えていますが、それではコスト概念も生まれません」と言う。
「今の若者が起業に熱中するのには環境と産業の要因があります」と楊雅惠マネージャーは言う。企業に就職しても給与は低いので若者はごく自然に起業を目指すことになり、ネットの世界では起業のハードルも低いため、誰もがチャレンジしようと思うのである。
CLBCの位置づけも一般のコワーキングスペースとは異なる。「最大の違いは、他のコワーキングスペースが起業前の若者にふさわしいのに対し、ここは起業後の利用にふさわしいという点です」と楊育正は言う。CLBCが提供するのは空間だけでなく、一連のサービスなのである。
起業した若者たちにとって最大のメリットは、オフィスの内装や設備に資金をかけずに済むことだ。CLBCには1人から10人までのチームで利用できるオフィス空間があり、起業チームが増えれば空間も調節できる。
チームが育って一人立ちするまでは1~2年とされているが、例外もある。香港系の拉拉moveというバイク便の会社は、最初は2~3人だったのが2ヶ月で20人まで増え、スペースが足りなくなってCLBCから巣立っていった。
夢が交流する場
CLBCはビジネス・コワーキングスペースとしてのサービスが充実している。受付スタッフが郵便物や電話を受けるほか、入居者の商業登記に住所を提供しており、現在は10社がCLBCの住所を使って営業登記している。
40歳以上の利用者はいないと林育正は言う。起業を目指すのは若者が多く、男性が8~9割を占める。人が出入りし、情報が交流するのがコワーキングスペースの特色だが、40歳以上の人は喧騒を嫌うからでもあるという。
「CLBCの入居者は自然に一つのグループとなります。オープンスペースではしばしばイノベーションイベントも開いているので、交流と露出の機会も増えます」と楊雅惠は言う。
ここで生まれた交流の最も典型的な事例がCLBCのサイトで紹介されている。イタリア出身の入居者Maxは3Dグラフィックのプロで、ゲーム開発のために急遽プログラミングができる人を探さなければならなくなった。それを知ったCLBCが同じスペースを共有する「爆爆玉米粒」のプロデューサーAbyssを紹介したところ、二人は意気投合し、48時間不眠不休で市場に出せる完璧なゲームを完成させたのである。
カスタマイズ開発のW&K
威凱自動化チーム(W&K)も、CLBCの「交流」の機能に惹かれて入居した。30歳の若者4人から成るW&Kは、カスタマイズ開発を行なっている。創設者の李正凱によると、スマートウォッチやロボットアームなど、顧客が求める製品を生産可能な段階まで開発するのである。
設立から1年半、李正凱は当初、商談や契約のために長安東路に小さなオフィスを借りていたが、CLBC大船艦店がオープンすると迷わず入居を決め、3Dプリンターや彫刻機などを持ち込み、メンバーも揃った。
ハード設計を担当する郭秉儒によると、最近は海外へ出て行った台湾企業が国内に戻ってきているが、自社で研究開発部門を持ちたくないという企業も多いため、K&Wのような開発チームに市場が生まれていると言う。「注文を受けることで、派生的に自分たちの製品も生み出していくことができるのです」と言う。
彼らは商品をCLBCのショーケースに展示しておくことで露出度を高めている。CLBCのイベントに参加した人が、展示されたロボットアームを見て話を聞きに来たり、彼らの3Dプリンターを借りに来た人と創意や発想について話し合うこともあるという。
大切なのは利益
若い起業家にとって、CLBCは夢を実現する基地となっているが、CLBCの経営側はさらに支店やスペースを拡大する意思はない。
コワーキングスペース経営は儲かる事業ではなく、それは香港や日本、中国大陸も同じだと林育正は言う。先ごろ、台北市の柯文哲市長は、コワーキングスペースを10カ所以上設けると語ったが、台北市や新北市には、新北創立坊や創夢市集、台北創新実験室など、複数のシェアオフィスがあり、スペースは不足していないのである。
「政府と競争するより、経営モデルを変えるべきです」と語る林育正は、これからは入居者が利益を出せる方向を考えていきたいと話す。
合理的な利益が出てこそコワーキングスペースを持続的に運営していけると考えるCLBCが、これから入居者のビジネスをどうサポートしていくか、今後に注目したい。
CLBCの林育正総経理(上)は、オープンスペースを外部のイベントに貸し出すことで収入を上げると同時に入居チームの露出度を高めている。
CLBCの林育正総経理(上)は、オープンスペースを外部のイベントに貸し出すことで収入を上げると同時に入居チームの露出度を高めている。
大船艦店の中央にあるオープンスペースは、交流やイベントなど多様な目的に使用される。
快適な環境で高速インターネットが使用できるコワーキングスペースを利用することで、起業前後のチームは経費を削減できる。
CLBCの入り口には入居者の名刺やパンフレットがあり、自由に手に取ることができる。