呉欣芷——フリースタイル
呉欣芷は中学までは学校の美術コースに学んでいたが、他のことを試してみたいと思い、回り道をした後、再び絵画を中心とする生活に戻った。
「私にとって絵を描くのは本当に楽しいことだったのですが、中学に入るとプレッシャーを感じ始め、楽しくなくなったのです」と言う。そこで一般の高校に入り、成功大学外国文学科に進学した。大学時代はNGOのプランに参加してインドの貧しい子供のサポートに携わった。「本来は英語を教えていたのですが、絵が描けるというので絵も教えることになりました」この意外なきかっけで、彼女は再び絵を描く喜びを見出し、インドを旅しながら思いのままに描いた。さらに現地でできた友人を通して、人生は安定した仕事に就くことが全てではないと気付かされた。
何もかも忘れて打ち込めるものはないか。そう自問した時、彼女の答えは絵だった。だが、好きではあってもそれを職業とするには程遠いと感じ、イラストを学ぶために留学することを決めた。
イギリス留学中は順調なことばかりではなかった。呉欣芷はゼロからスタートするつもりだったが、クラスメートとの距離があまりにも大きく、自分はうまく描くことができなかった。「その頃は永遠にうまく描けないのではないかと思いました」と辛そうに話す。それでも懸命に努力し、食事と入浴と睡眠の時間以外、一日に十数時間描き続けることもしばしばだった。休みなく描き続けることで、呉欣芷は少しずつ方向を見出していった。
呉欣芷のインスタグラムを見ると、百枚に上る作品がアップされており、いかに旺盛に制作しているかがわかる。スケッチブックを手に行く先々で絵を描くというのはイギリスで身につけた習慣だ。イギリスの先生からは「less is more」という原則を学んだ。彼女の筆致は素朴で色彩はシンプルだが、情感に満ちていて楽しさがあふれている。常に「気ままに」描いていると笑う呉欣芷は、下描きはせず、先に頭の中で構図を考えてから直接描いていく方法で、自由なスタイルである。
ボローニャ絵本原画コンクールで入選した『Farewell』は彼女の卒業制作である。学校では毎年、すべての卒業制作をボローニャのコンクールに参加させているが、2016年の入選は2点のみで、いずれも台湾人の作品だった。入選は幸運であり、ひとつの前向きな評価だったと語る。打ちのめされて失っていた自信に、これでエネルギーが注がれた。ボローニャでの入選によって作品が人の目に触れるようになり、イラストレーターへの道を歩み続けることができた。
プロのイラストレーターとして生きる決意をした彼女は、昨年イギリスから帰国したばかりだが、帰国してからの半年は何から手を付けていいのかわからず、安定した暮らしを望む思いもあり、どんな仕事もすべて引き受けることにした。しかし今は、自分の生活に余白を持ち、自分の物語を創作する時間を持ちたいと考えている。
呉欣芷は、自分にとって絵を描くことは「呼吸」と同じぐらい自然で重要なことだと言う。彼女のフェイスブックを見ると、旅行の途中やカフェでのスケッチがアップされていて、絵が生活であり呼吸であるということがよくわかる。
イラストレーターの世界に踏み込み、彼らの物語を聞けば、あなたも筆を執って何か描きたくなるかも知れない。
『ドリアンが食べたい』はタイでも 発行され、ドリアンの産地でも愛さ れている。(劉旭恭提供)
ボローニャ絵本原画コンクールで 入選した『最後の三つの事』は、作者の心の風景を描き出す。(徐銘宏提供)
「最も近くて最も遠い距離」。徐銘宏は単一空間に物語を展開するのを得意とする。(徐銘宏提供)
アカデミックな技法を手放すことで、徐銘宏の創作には余裕と詩意が加わった。
呉欣芷の『Farewell』。シンプルなタッチと色彩で孤独を描き出す。(呉欣芷提供)
呉欣芷はさまざまな素材を用いた創作に取り組んでいる。(呉欣芷提供、雑誌『小典蔵』表紙デザイン)
呉欣芷は素朴なタッチとシンプルな色彩で豊かな感情を表現する。(呉欣芷提供)