物語の中から体得する
文字媒体の記者も兼務する劉致昕は、8年前に「美麗湾」という記事を書き、最近ポッドキャスト番組でこの記事を書いたときの取材対象にインタビューをした。8年前と今とで、気持ちに違いはあるかと劉致昕にたずねると、「ついに彼らの声が聞き届けられました」と答える。
劉致昕によると、文字媒体の記事は、記者の解釈を経て書かれ、取材対象が語った話の位置づけも記者が調整できるため、読者は直接その人の声を聴くことができない。しかしボッドキャストなら、リスナーは対話の中からすべての言葉の脈絡を理解することができる。
「文字媒体とポッドキャストという二つの媒介が伝えられるものは、もともと違うのです」と劉致昕は言う。文字による報道では表やグラフ、写真やレイアウトなど、構造的に情報を伝えることができ、ポッドキャストは感情的なつながりを通して直線的に物語を伝える。
彼はニューヨーク・タイムズのポッドキャスト番組「The Daily」の特集「Tilly Remembers Her Grandfather」を例に挙げる。新型コロナウイルス流行で多くの人の心が傷ついていることを考える内容で、コロナで祖父を亡くした幼い少女に、生活や心への影響をたずねる。その言葉からリスナーは、この課題にどう向き合うべきか考えさせられる。番組の中で、司会者はコロナによる経済の低迷や他のデータを説明することはなく、ひとつの物語を淡々と伝える。
劉致昕に取材をした日、彼はちょうど第1シーズンの最後の番組の収録中で、今回のポッドキャスト実験による『報道者』への影響を語っていた。まずリスナーの感想が得られたこと、そして寄付とコメントが増えたことから、多くの人が支持してくれていることが感じられたという。今後の課題は、ポッドキャストで得られたリスナーをどう引き留めていくかだと言う。
将来的にポッドキャストは報道にどのような影響を及ぼしていくのか。「私にも答えはありません。私はより多くの問題を投げかけるだけです。ポッドキャストも私が人々に投げかける疑問で、それに対する人々の反応を見てみたいのです」と劉致昕は答えた。