目に見えない肉体
上述の初期の作品において、怡亭侯は主に己の身体を創作の媒介としてきた。しかし、最近の作品では、自分の身体に目を向けるだけではなく、身体の背後で働くさまざまなメカニズムに目を向けている。以前の作品を「目に見える肉体のパフォーマンス」とするならば、最近の作品は「目に見えない肉体」に焦点を当てるものと言えるだろう。
2015年の展覧会『刺繍受託工場』以降、侯怡亭の「刺繍アクション」はかつての『複体』のように覆い隠されたものではなく、展覧会場でその過程を露出するパフォーマンスとなった。作業員がタイムカードを押して刺繍を行なうという勤務形態を見せる。言い換えれば、以前の作品で私たちが目にしたのは完成した刺繍の美だったが、現在は「作品が作られるプロセス」を見せ、そこからさらにアート制作の労働メカニズムに焦点を当てる。これまでアーティストの労働は作品の陰に隠れて注目されることはなかったが、侯怡亭は「現場」での刺繍作業とタイムカードを押す行為を通して、制度批判(インスティテューショナル・クリティーク)を実践している。