光環境を知る
「台湾光環境賞は、照明や光の機能を審査するのではなく、光と環境の相互関係にフォーカスしたものです」と、国際的な照明デザイナーで審査委員長を務める周錬は説明する。ニューヨークの自由の女神像から台湾の恒春古城、台南の風神廟の照明までデザインしてきた周錬は、次々と光の魔法を展開してきた。周錬にとって光は、見える見えないとか、明るい明るくないかといった問題ではなく、光と環境の関係、光が人の感情をどう左右するかが重点なのである。
それでは、光環境とは何なのかと問うと、周錬は分りやすいように例を二つ挙げて、解説してくれた。
たとえば、定期的に廟にお参りするのが台湾人の日常生活だが、台湾の多くの廟は蛍光灯が一列に並んで、ちかちかするような眩しい光を放ち、目も開けていられない。
夜の帳が降り、明りが灯り始めると、町は夜の装いとなるが、街を歩いても、街灯が上から下に照らしているため、道行く人の顔が黒く沈んでよく見えない。「台湾の街灯は平面的な光度だけ考えていて、縦方向の照明を考えていません。これは法規制から検討し直す必要があります」と周錬は言う。
二つとも悪い例なのだが、日常生活にありふれた例でもあり、光環境に対する認識が低い台湾の現状を映し出している。
台湾の照明の多くは騒々しく、落ち着かない。林懐民は騒音にならって、「騒光」という概念を打ち出すが、私たちは騒音には関心があっても、騒光も環境汚染の一種だとは気づかないでいる。眼は光の刺激を受けて、網膜の上に像を結ぶのだから、視覚は光の刺激に頼っている。しかし、照明は明るければ良いとは言えないのである。夜間の照明であっても、それほど高い光度は必要ない。人の網膜には桿状体と錐状体の視細胞がある。錐状体細胞は色彩に敏感で昼間を担当し、桿状体細胞は微光に敏感で夜を担当し、照度のごく低い中でも、物体を識別できるのである。しかし、現在の光害が深刻な環境では、夜の闇は光に侵食され、光度を感じる錐状体細胞の機能が失われつつあるという。これは人間にとって深刻な事態なのだと、周錬は心配する。
光は照明の機能だけではなく、周囲の雰囲気や感情の交流などにおいても機能を有し、私たちの生活の質に影響する。だからこそ、光環境の問題は今日重要となっているのである。
審査員団と共に、私たちは宜蘭、台中、台南、高雄など、光と影を求めながら、ノミネートされた数件の建築物を見て回った。そこで光は単なる光ではなく、光と火との関係がさらに重要なことに気づかされた。
光に染まった空間は、白昼とは全く異なる雰囲気を感じさせる。写真は中興クリエイティブパーク。