言語交換で深まる友情
このような交流と親交を通して、生徒たちの真心が李秀蓮さんに通じたのだろう。彼女は劉政暉に、漢字の書き方を習いたいと言ってきた。「自分ができないことや弱点を人に見せるというのは大変な勇気がいることです。交流を重ねるうちに彼女は、この生徒たちになら笑われることはない、教えてもらえると信じられるようになったのでしょう」と劉政暉は言う。
ところが、最初の授業の日、思いがけない展開が待っていた。李秀蓮さんは中国語でのコミュニケーションは問題ないので、契約書や銀行の手続等に必要な字が書けるように教えればいいと思っていた。ところが行ってみると、李秀蓮さんは重々しい表情で彼らを出迎え、インドネシア生活館の2階に設けた教室に案内した。そこにはホワイトボードと机と椅子がいくつか置かれ、数人のインドネシア人労働者が待っていて、劉政暉と生徒たちが入ってくると、うれしそうに笑顔を浮かべ、目を輝かせた。「まず彼らに授業をしてあげてください。彼らの方が中国語学習を必要としているので」と李秀蓮さんは言った。
実はしばらく前、ある移住労働者が通訳者のいない状況で雇用主と不平等な契約書に署名させられていたのだという。数日連続24時間も働かされ、休みたいと申し出たら殴打され、送還されたのである。これを知った李秀蓮さんは心を痛め、もし彼らが中国語を読めたら、こうした事態は減らせるのではないかと考えたのである。
そこで生徒たちは中国語の発音記号から始め、手を取って一画ずつ漢字の書き方を教えていった。働いているため、授業に出てくる人数や中国語レベルは毎回異なり、生徒たちは機動的にグループ分けして教える。中国語を教えるだけでなく、単語が出てきたら彼らからインドネシア語を教えてもらう。一方的に中国語を教えるのでは、無意識のうちに上下関係ができてしまうが、生徒と労働者の間には対等な関係を築いてほしいので、同時にインドネシア語を教えてもらうことで、インドネシア人労働者にも自信を持ってほしいからである。
生徒たちは、移住労働者が遭遇する場面などを考えて教え方も工夫している。例えば病院へ行ったり、列車の切符を買ったり、映画館に行ったりという場面を想定し、わかりやすい内容にしている。今年の冬休み、旧正月でそれぞれ台中や台南、花蓮などの自宅へ帰るべき生徒たちは、2日間台東に集まって集中中国語教室を開き、また列車で富岡漁港まで行って、移住労働者たちの仕事の状況を理解した。
「いろいろ忙しくて、やめたいと思う時もあります。でも、自分がやめたら誰が彼らに中国語を教えるのかと思うとやめられません」と張慧إtさんは言う。長年にわたる親交を通し、生徒たちとインドネシア人労働者との間には家族のような感情が生まれている。生徒たちは能動的に移住労働者に関するテーマに関心を注ぎ、文献を読み、また東南アジアに関わる活動をしているNPOなどとも協力している。ボランティア時間数は学校の単位には計上されず、すべて生徒たちの自発的な使命感から行なっている。
東南アジア移動図書館には、移住労働者に対する生徒たちの関心が結集している。重要なのは本を貸し出すことではなく、海外から働きに来ている人々に、彼らに関心を寄せる人が集まっている場所があることを知ってもらうことだ。日常的に文化交流を重ねることで、互いの良さや似ているところを発見し、さらに理解を深めていく。こうして遠来の友人たちのために、暖かな火を灯すことができるのである。
生徒たちは課外の時間を利用して移住労働者と言語交換を行なっている。一緒に過ごす時間が増えるにつれて互いの友情も深まっていく。
生徒たちは課外の時間を利用して移住労働者と言語交換を行なっている。一緒に過ごす時間が増えるにつれて互いの友情も深まっていく。
東南アジア移動図書館は、どんなに小さな善意でも互いの心を動かせることを証明した。
(右の写真)一緒になって東南アジア移動図書館を実現させた劉政暉(右から2人目)と李秀蓮さん(一番右)。