毎年40機関以上を審査
農業委員会は動物保護法に従って動物実験機関を監督管理する責任を負い、学者や専門家、動物保護団体や地方自治体の動物保護検察員を集め、年度報告の内容に問題のある実験機関を実地に審査する。審査の結果は優・良・可・不可(不合格)の4レベルに分けられる。
昨年の法改正によって、農業委員会は年に40以上の機関を審査することとなった。林宗毅によると、今年は50機関を審査する予定で、昨年「不可」と評価された機関を中心に実施する。毎年40機関を審査する場合、「不可」と評価されるのは全体の10分の1ほどで、製薬会社と小規模の実験機関が多いという。
審査委員の一人である台湾動物社会研究会の朱増宏は、全国に200余りある実験機関の3分の1、約70の動物実験室は妥当な運営がなされていないため、淘汰されるべきだと考える。
しかし、動物実験室は農業委員会の許認可を必要としないため、強制的に閉鎖させることはできない。そのため、農業委員会は機構審査弁法に従って、国家科学委員会や衛生福利部に、評価の低い実験機構の研究申請や医薬品審査登記を否決するよう「建議」することしかできない。
また農業委員会としては、こうした実験機関は自ら動物実験は行なわず、財団法人国家実験研究院(NLAC)や医薬品開発受託機関(CRO)に実験を依頼するべきだと考えている。
NLACとCROは、国際実験動物管理公認協会(AAALAC)の認証を取得しており、実験動物の管理と使用はすべて国際標準にかなっている。NLAC企画推広組の秦咸静は、動物実験の外部委託を考えている製薬会社やバイオ企業にとっては、この点は大きな魅力になるはずだと語る。
ただし、巨額の費用がかかる。NLACではラットの受託飼育は1籠1日30元で、大学の動物実験室の0~15元よりかなり高い。ましてや企業利益を追求し、優良試験所規範(GLP)認証を取得しているCROの料金はさらに高くつく。
製薬会社やバイオ企業が自社で動物実験室を設けるのはコスト削減のためである。したがって受託機関の質がいかに高くても、費用が高くつくので依頼する企業は少ないと秦咸静は言う。
また、動物実験に関わる各省庁が統一の基準を採用しなければ、質の悪い動物実験室を閉鎖させることはできないと秦咸静は指摘する。
「農業委員会が不合格と判定した動物実験室については、国家科学委員会はその計画申請を否決するべきですし、衛生福利部もそこから提出された実験データを採用してはなりません。各省庁が同じ立場に立たず、抜け道ができてしまえば意味がありません」と秦咸静は言う。
このように質の悪い実験室を閉鎖させるほかに、動物保護団体は動物実験機関の自主管理のランク分けを行なうべきだと建言する。ランクの低い機関には審査の頻度を高め、ランクの高い機関にはより多くの自主管理の空間を与えるというものだ。
実際、国内トップレベルの研究機構では動物実験室の管理制度が完備している。機関によって方法はさまざまだが、科学的実験上のニーズを満たすとともに動物福祉にも配慮している。
優良管理事例の1:中央研究院
中央研究院の場合、生物医学、分子生物、生物化学、遺伝子、細胞生物など生命科学の基礎研究を行なう部門はすべて動物実験を行なう。動物保護法実施後、中央研究院では動物実験管理小委員会を設置し、院内のすべての動物実験計画の申請を審査するとともに、異なる研究部門に属する10の動物実験室を監督している。これら10の動物実験室にはそれぞれケア委員会が置かれ、そのすべてに獣医も配属されている。
動物実験管理小委員会エグゼクティブ・セクレタリーの劉福華によると、中央研究院では年に100~150件の動物実験が申請され、審査では3Rについての説明も求める。例えば、特殊な品種の動物を使う理由、使用する動物数削減の可能性などを説明する必要があり、3Rに符合することが認められなければならない。
「計画実施が許可された後は、動物実験管理小委員会が追跡審査できるよう、研究担当者は一日単位、週単位、月単位で使用した動物の数を定期的にネット上のフォーマットに書き入れなければなりません」と劉福華は説明する。
中央研究院で使用する実験動物は主にラット、マウス、ハムスター、モルモット、ゼブラフィッシュが中心で、中大型動物はウサギだけ、この他に少数のフェレットを輸入してインフルエンザウイルスの研究を行なったことがある。
3Rの中の「改善」を実施するために、2012年から動物実験技術訓練課程を設け、動物実験に30年の経験を持つベテランを講師に招き、動物の苦痛を軽減する方法を学んでいる。
優良管理事例の2:国防医学院
国防医学院は我が国で最初にAAALACの国際認証を取得した教育研究機構であり、農業委員会の審査の他に、3年に一度AAALACの審査も受けている。動物実験計画に従事する者は、動物の使用とケア、動物保護法課程訓練の検定を受けなければ動物使用は許可されない。動物飼育エリアに入る時は、消毒した帽子や靴カバーをつけ、検疫を受けた動物を外部の汚染から守っている。
ここではげっ歯類やウサギの他に、実験用のビーグル犬やミニブタ、そして農業委員会から科学研究に使用する許可を得たタイワンザルも飼育している。それぞれ品種ごとに温度と湿度をコントロールした専用の部屋があり、同じ種類の動物は群れで生活している。
国防医学院動物センターの方美佐主任によると、実験上の合理的な要求や獣医学的考慮があるか、群れと合わないなどの理由があり、実験動物ケア委員会の同意を得なければ、動物を仲間から隔離することはないという。群生する動物は仲間から引き離されると心身や行為に異常を来すこともあるからだ。
また、ここの実験動物たちは一般のペット以上に行き届いたケアを受けている。ビーグルはマイクロチップを埋め込み、実験室のスタッフが毎日ケアをするだけでなく、しばしば飼育室に行って可愛がっている。
この他にも、ウサギには噛んだり遊んだりできる各種玩具を与え、ビーグルは午前と午後に30分ずつ廊下で自由に遊ばせてやる。ミニブタの玩具は毎週新しいものに取り換えてあげる。またタイワンザルの部屋では毎朝1時間、テレビの映像と音楽を流し、安全を考慮したさまざまな玩具を与えている。
動物たちの健康を維持するために、ウサギとビーグル、ミニブタ、タイワンザルは半年に一度健康診断を行ない、タイワンザルについては、さらに年に一度、肺結核と全身の超音波検査も行なっている。「飼育の段階も実験期間中も、私たちは動物が確実に良好な健康ケアを受けられるようにしています」と方美佐は言う。
実験動物の福祉は人間福祉
農業委員会畜牧処動物保護科の林宗毅科長は、実験動物福祉の管理とケアの制度は確立されたものの、特に実験機構の自主管理などについて、まだまだ改善の余地があると考えている。
確かに、今年から各省庁は研究費補助や審査などを通して動物実験機関の内部管理強化を監督推進している。医薬の研究には動物実験が欠かせない状況において、実験に携わる機関と担当者は「実験動物の福祉は人間福祉である」という認識を持たなければならない。