廃棄布に新たな命を
生地の生産大国である台湾では、大量生産の下で悪影響も出ている。
生産過剰になれば、当然大量の在庫を抱えることとなる。切り落としやサンプル生地、シーズン遅れや不良品など、市場に出せない布地は多くの場合、廃棄されることとなる。
そこで、循環経済の概念を取り入れた「布地銀行」では、こうした見向きもされない生地を集め、デザイナーに提供している。
工業技術研究院では繊維産業の集中する台南に拠点を置き、現地で活動する古都保存再生文教基金会と企業をマッチングするプラットフォームを立ち上げた。ナイキやアディダス、ヴィクトリアズ・シークレット、バーバーリーなどに生地を供給する大手メーカーも直接消費者向けの扉を開き、ネット販売のほかに、基金会の所在地に店舗を開き、布地を販売している。
廃棄される運命だった布地の使い道は実に多様だ。異業種のマッチングに取り組む工業技術研究院の黄妃平は7組のデザインチームとメーカー7社をマッチングし、ホテルのザ・プレイス台南の客室をアレンジした。色が変化する宏遠興業(Everest)の生地とアクリルを合わせた装飾品はフラッシュを焚いて撮影すると光りを放つ。嘉方実業(Liberty)のレースは壁掛けやテーブルの装飾になった。
これだけではない。大手工業用ミシンメーカーの傘下にある高林文創基金会では、工場でテストをする際に出る大量の廃棄生地を利用するため、「縫い直しプロジェクト」を推進し始めた。
台北市大直にある同基金会を訪ねると、まるで秘密基地のような地下室にミシンが8台並んでいる。通常のミシンの他に12本針タイプやボタンホーラーなど珍しい機種もある。
床にはたくさんの布があり、CEOの林育貞が貯蔵庫のドアを開けると、段ボール箱が山と積まれていて、中には台湾各地の生地メーカーから提供された廃棄布が詰まっている。積極的に生地メーカーとデザイナーの仲立ちをしている彼らは、廃棄布に新たな命を与えている。
傍らのトルソーに着せられた2着の服は、デザイナーの詹宗佑が廃棄布を使って製作した作品だ。基金会の協力の下、彼は作品をラスベガスへ送ることになっており、台湾のデザイナー10人とともに出展する予定だ。
古着を愛する彼は、デザインに古着を用い、ストリートやユニセックスのスタイルを生み出してきた。「パリで勉強していた時、しばしば古着屋へ掘り出し物を探しにいきました。とても良い服が低価格で売られていて、服が泣いているように感じたのです」と詹宗裕は言う。
基金会が提供するマシンを用い、ストライプのシャツに、巧みな配色で機能的なステッチをかけ、全体に立体感を持たせる。
ストライプのロングシャツは、ジャケットにもワンピースにもなり、男女ともに着られる。
古着や廃棄布の再利用は、ファッション市場のごく一部に過ぎない。だが「デザイナーの商品の10点のうち1点にこうしたコンセプトが用いられていれば、この問題を意識していることが分かり、教育という私たちの目的も達成できるのです」と林育貞は語る。
工業技術研究院は台南の基金会と協力して「布地銀行」を設立した。生地メーカーから在庫を引き受け、整理して陳列する。消費者はこれを古都保存再生文教基金会で購入することができ、地域の女性たちの協力で商品へと加工することもできる。
伊甸社会服務基金会と布地銀行が協力して製作した廃棄布の立体教材。障碍者はこれを使ってファスナーの開け閉めや靴紐の結び方を練習できる。
伊甸社会服務基金会と布地銀行が協力して製作した廃棄布の立体教材。障碍者はこれを使ってファスナーの開け閉めや靴紐の結び方を練習できる。
伊甸社会服務基金会と布地銀行が協力して製作した廃棄布の立体教材。障碍者はこれを使ってファスナーの開け閉めや靴紐の結び方を練習できる。
伊甸社会服務基金会と布地銀行が協力して製作した廃棄布の立体教材。障碍者はこれを使ってファスナーの開け閉めや靴紐の結び方を練習できる。
デザイナーが参考にできるよう、オンラインで販売する布地には規格や供給元など詳細な資料が提供されている。
高林文創基金会は、デザイナーに廃棄布を素材として利用することを奨励している。写真の基金会CEOの林育貞(右)と服飾デザイナーの詹宗佑(左)は、トルソーに着せた服飾を海外の見本市に出展する。
服にゴムを縫い付けるための12本針のミシンを使い、デザイナーはさまざまな配色と縫い方で衣服に美しい模様をつけていく。