百年伝わる大切な味
台湾の食を語る時、忘れてならないのは400年の歴史を持つ台南だ。台南で生まれ育ち、地元で民宿「謝宅」を経営する謝小五は、幼い頃から台南市の正興街一帯で育ち、台南の小吃(屋台などで食べられる軽食類)地図を熟知している。彼に台南流のもてなしについて話を聞くと、食を例にこう説明する。「歴史のある店なら、食器は陶磁器を使っています。これは食べ物の状態に影響するので重要な点です。ワンコインの蓮茶も必ずガラスのコップで出されます。冷たいのでガラスの表面に水滴がつき、唇が触れるとひんやりします。プラスチックのコップではこういう感覚は味わえません」
また、お客に合わせてカスタマイズしたサービスを提供してくれる店も多い。例えば肉そぼろご飯なら、注文する時に、油少なめ、汁多め、味薄め、ご飯を少なめなど、好みを伝えさえすればどのお客の要求にも応えてくれる。
台南人は食材の質にも非常にうるさい。中西区にある「黄氏蝦仁肉圓」(肉圓は肉などの餡を澱粉粉で包んで蒸したり揚げたりした軽食)はしばしばシャッターが下ろされていて「エビがありません」という札がかけられている。売り切れかと思う人もいるが、謝小五によると、オーナーが今日は質のいいエビが手に入らないと判断して店を開けていないのだという。「食材にかなり高いレベルを求めているので、仕入れられない時もあります。求めるレベルに達していない時は閉めるしかありません」「これが台南のサービスのこだわりです」と謝小五は言う。
謝小五は台南人の人情と思いやりも重要な要素だと考える。台南は早くから発展した地域なので、多くの店が三代目、四代目に継がれているが、店を継いでいくのは容易なことではない。
「重要なのは『味』だけではなく『継承』なのです」と言う。老舗が創業した当時、台湾は経済的に豊かではなく、飲食店も小銭を稼ぐ他なかった。そうした中で子供に留学させたりするのも、親が子の世代には同じ苦労をさせたくないと思ったからだ。そうした中、それでも台南の味を残していこうと、店を継ぐ子供がいる。台南人の幼い頃の思い出の味を受け継ぎ、残していくためだ。台南の小吃店は春節などでも1~2日しか休まないが、これも長年の常連客のためなのである。留学や仕事で海外に暮らしているお客も旧正月には故郷に帰ってくる。「だから当然店は開けることになります。昔馴染みのお客さんに故郷の味を楽しんでもらいたいからです」と謝小五は説明する。こうした思いやりや店主とお客との関係には感動させられる。
レストラン「欣葉食芸軒」と徐仲が手を組んで打ち出したコースメニュー「台湾一周」と「台北台北」。テーブルの上で台湾を旅することができ、どの料理にも節気や土地、風土、文化などの物語が込められている。