無限の可能性、W春池計画
幼い頃からガラス回収工場で育った呉庭安は、山のように積まれた牛乳瓶の匂いを嗅ぎ、父や社員がガラスを仕分ける苦労を目にすることで、次第にエンジニアリングや素材科学に興味を持つようになった。そこで呉庭安は成功大学で資源工学を専攻し、イギリスのケンブリッジで工業管理技術の学位を取得した。台湾に戻ってからはまず台湾セミコンダクター(TSMC)に勤務してから、家業を継ぐために家に戻った。どのようなテクノロジーも最後はコモディティ化し、利益率が下がることをIT産業で経験しており、経営形態の転換による企業経営の持続性が将来の課題になると理解していた。それでは春池玻璃の将来はどこにあるのか。そこで提案したW春池計画に込められた循環型経済の理念が、その答えとなった。
「Wとは、父から受け継いだ姓の呉(Wu)と、廃棄物のW(Waste)の意味ですが、最も重要な意味は無(Wu)です」と言う通り、W春池計画には回収再利用を理念とするものであれば制約なく盛り込まれ、春池玻璃が回収したガラスと、ガラス職人の技術を使い、外部のデザイナーとのジャンルを越えたコラボレーションも、すべてW春池計画に組み入れられる。
2017年に開かれた台湾文化創意設計博覧会(Creative Expo Taiwan)では「循環型経済の海」を企画し、40トンの回収ガラスでガラスの海を作り、参加者は靴を脱いで踏みしめ感触を体験した。7月に開かれた温泉地の北投納涼フェスティバルでは、回収ガラスを原料に吹きガラスで作った浮き風鈴を温泉博物館の湯船に浮かべ、ゆらゆらとぶつかる澄んだ音色から、夏の日の雰囲気を視覚と聴覚で楽しんだ。またデザイナー江振誠とコラボした食器セットは、すべて回収ガラスのリユースで、お盆はウィスキーの酒樽を再利用したものである。さらにアーティストの林俊傑と手を組み、予約販売のCDに特典で手形のガラス瓶を付けた。これらの事例は、どれも回収ガラスを様々なスタイルで生活に再利用し、日常生活の一部としたものである。
こう聞くと、サプライチェーンの末端に位置する回収会社が攻守を転換し、需要創出の最先端を走るかのようである。
その通りで、「循環型経済では、末端から価値を創造しないと循環は完成しません」と、呉安庭は循環の概念を運用して、ジャンルの異なる人々と協力し、回収ガラスのリユース、リサイクルを推進している。林俊傑とコラボした手形のガラス瓶では、予約するファンの数が増え続け、それに続くサイクルが動き出した。「143一口ビールグラス」プロジェクトでは、一般の人々と回収スタッフを結び付け、一緒に写真を撮って申し込むと、春池玻璃が回収再利用ガラスで製造したビールグラスをもらえるというものだが、大きな反響を呼んだ。143と名付けたのは、日本時代の台湾において、専売局がアルコール消費を統制するため、143㏄という小ぶりなビールグラスを製造したという故事に由来する。
循環型経済の概念は、香港のデザイナー梁康勤の心も動かした。陶芸創作を行っていた梁康勤だが、陶器製造の過程で発生する廃棄物を回収再利用できず、資源の消耗になると気づいていた。そこから、芸術創作は美しい作品を創造して販売し、利益を上げるだけでいいのか、それとも環境によって意義のある創作を志すべきかと考えていた。それが友人の紹介で春池玻璃を訪れ、ガラスであれば100パーセント回収が可能で、陶器より環境にやさしいことを発見した。春池玻璃のベテランのガラス職人は、回収ガラスを吹いて彼女のデザインした作品に仕上げ、完成品はまた100パーセント回収可能と言うことで、その悩みに答えを見出すことができた。
防火、断熱、防音の効果があり、しかも軽い「安新軽質省エネタイル」は、環境配慮と省エネが求められる未来型の建材と言える。