ジャンルを越えて
美術館は深遠な使命を持つが、民間の小さな展覧会はそれぞれの創意を際立たせる十年ほど前、写真家の李旭彬は、文化の薫り高い台南に「海馬迴光画館」を開いた。写真や写真教育の推進を趣旨とする同館は画廊や教室、暗室などの機能を持つ複合空間で、すでに写真界において重要な存在である。
写真は情景や雰囲気をとらえることができるが、出来事の特質を精確に伝えるのは難しい。そこで李旭彬は写真そのものの限界を破り、映像やインスタレーションなど異質な素材を組み合わせて写真家の思いや写真の背後にある文化的、歴史的意味を表現しようとしている。
「写真家はストーリーテラーであり、その物語をどう語るかが最も重要です」と李旭彬は言う。2016年、台南の呉園で開催した「見証二二八——台南地区二二八事件受難者写真展」は、その一例と言える。重苦しい歴史的事件をテーマとする展覧会だが、悲劇を訴えるのではなく、「人」を手掛かりとし、観客と写真の中の人物との距離を縮めることを考えた。
展覧会場には、よく見られる巨大な写真や年表などはなく、古い家具が置かれ、そこに受難者に関する文献や歴史的写真、家族の録音などの資料が並べられた。こうして受難者一人ひとりのプライベートな空間が作り出され、写真家・潘小侠がとらえた受難者家族のポートレートが「痛点」となって展覧会場に美の張力をもたらした。
近年は、海馬迴光画館が開催した林柏<ع展や王有邦展などが大きな反響を呼び、多くの人の語り草となっている。
「どの写真家にも、独特のストーリーと、それにふさわしい切り口があります」と李旭彬は言う。早くから有名になった林柏樑は初期に席徳進に師事した台湾の重要な写真家で、かつて周夢蝶や葉石涛、七等生といった台湾の重要な作家の写真も撮った。だが、ここで個展を開くまでの20年は光を当てられることはなかった。
人々にポートレートの意義を理解してもらうため、李旭彬は録音や映像を通して林柏樑の写真の背後にある物語を伝え、この写真展のガイドブックも作った。ガイドブックは5×7の印画紙の箱の中に入っており、かつて林柏<عと席徳進が交わしたハガキを復刻したものと、李旭彬が文字をまねて書いた手紙が入っている。手紙は林柏<ع宛に書かれているが、これは展覧会の序言で、これを読むと展覧会全体が写真家の人生の備忘録であるかのように理解できる。
この小規模な展覧会は大成功を収め、後に高雄市立美術館に招かれて同館でも同様の展覧会を開き、林柏樑という写真家の名声も再び大いに高まった。
これとはまったく背景の異なるアマチュア写真家の王有邦は、24年にわたって屏東県の先住民集落である好茶集落を記録してきた。災害で崩落した集落への古道やその再建の過程などを記録してきたのである。李旭彬は、手描きで古道の等高線を描き、写真をそれぞれの位置に展示した。「展覧会を見ることで『集落へ帰る道』を歩いたのと同じ経験ができます」と李旭彬は言う。
こうした創意が好評を博し、台新芸術賞の審査員からも、この写真展は記録や肖像といった写真の美学の限界を乗り越え、鑑賞者を実際に現場に参加させる道を示したと高い評価を得ることとなった。この展覧会は後に順益台湾原住民博物館や国立美術館でも開催された。さらに高雄美術館では、企画全体の収蔵も議論されている。
「海馬迴光画館」で開かれた盧昱瑞の個展「イカ釣り船」。船の窓に模したフレームを通して、写真家の海上での日々が再現される。