インド投資は長期戦略で
田中光は、インド社会における重要な概念としてlive and let live(他者を受け入れる)という考え方を挙げる。例えば、インド人にとって、道路はそれを必要とする全ての人に開かれていて、自動車であれ自転車や三輪車であれ、さらにはラバや馬、ラクダや牛も道路を悠然と歩いている。車両が道を逆走してきてもインドの人々は驚かない。道路の設計上、こうしなければもとの場所に戻るのに2倍以上の時間がかかるのである。こうした、混乱の中に秩序を見出し、穏やかに共存するという態度があって、みんな目的地に到着できる。インド映画『きっと、うまくいく』に出てくる台詞「All is well」の通りだ。
また、インドは人口が13億人もいて昔から競争が激しいためか、インド人はさまざまな面で綿密に計算する。また、州によって税制が異なり、行政手続は繁雑であるため、外国人がインドで暮らしたり、ビジネスをしたりするには努力して適応しなければならない。そこでモディ首相はRed carpet will replace red tape(お役所仕事からレッドカーペットへ)という政策を打ち出し、効率の高い小さな政府を目指している。この他に、インドには解決したくてもすぐにはできない課題が数々あるという。多くの問題は、忍耐強く時間をかけてさまざまな条件を整えなければ解決できないのである。
そのため、インドへの投資を考えている企業に、田中光はじっくりと時間をかけて、長期戦略で飛躍を目指すようアドバイスする。時間をかけて現地で観察し、現地の風土や民情を理解すること。そして、ナショナルチームのような形で、産業チェーン全体で進出し、互いに助け合うというモデルがふさわしいと言う。インドでの発展は、短距離走ではなく、10~30年という長いレンジのマラソンととらえた方が良い。じっくり準備して良いパートナーを探してこそ長続きする。また、まず国内で産業の総点検を行ない、どのような産業がインド進出にふさわしいかを検討し、それから「大胆かつ細心の注意を払って一歩を踏み出すべきだ」と語る。
世界銀行が、世界190の国と地域のビジネスのしやすさを順位付けするビジネス環境ランキング(Ease of Doing Business, EoDB)を見ると、台湾は15位なのに対し、インドは100位である。このような開きを見れば、インド投資の難しさがわかるが、台湾の方式をインドに当てはめるのではなく、インドのポテンシャルに目を向けるべきである。「インドは深耕する価値のあるマーケットです」と田中光は強調する。
インドの道路があらゆる交通手段を受け入れることは、各国にここを走る機会があることを象徴している、と田中光は言う。台湾も準備をしてスタート地点に立たなければならない。道は決して平坦ではないが、エンジンをかけ、ハンドルを握り、目的地を明確にすれば、必ず夢の地に到達できることだろう。
台湾-インド関係は田中光代表の在任中に大きく進展した。
インド投資は短距離走ではなく、持久力が試されるマラソンである。