現地での学校設立
産業が変化していく中で、より多くの優秀な人材が必要となり、企業間の人材争奪戦が始まっている。新卒を採用するために、長年にわたってタイで活動してきた台湾企業の中には、事業を教育分野にも広げ、自ら人材を育成しようとしているところもある。
十年前、張玲琴の父親でBDIグループ創業者である張聚麟は、タイで企業の需要に対して技術人材が不足しており、産学のつながりがないことを強く感じ、「タイ-台湾(BDI)科技学院」を設立した。この学校の学部学科は企業のニーズに基づいて設けられ、職業高校と二年制専科学校の二つのコースがある。職業高校は自動車部品製造科をメインとし、二年制専科学校には製造技術科と会計学科がある。一学年の定員は20名で、学校での学科学習の他に提携企業での実習を行なう。全額奨学金が提供され、卒業後は提携企業で2〜3年は働かなければならない。
「先人が植えた木の陰で後人が涼をとる」と言うが、教育界に大きく貢献してきた張聚麟は「タイ中華インターナショナルスクール」の創設者の一人でもある。
1995年に創設されたタイ中華インターナショナルスクールは、中国語で授業を行なう華語学校ではない。当初、台湾人ビジネスマンの子女の教育のために、多くの台湾企業や駐在員が資金を集めて創設した学校であり、幼稚園から中学・高校まで12学年ある。制度はアメリカ式で、教員の大多数は英語圏の出身だ。だが、設立の背景から、理事会は台湾人から成り、授業の内容から文化活動まで、アメリカ、台湾、タイの三つの文化を兼ね備えている。この学校の評判は高く、台湾人生徒だけでなく、タイ人の生徒も大勢通っており、高校卒業後に台湾へ留学する生徒も多い。
今(2018)年6月に理事長に就任したばかりの章維斌はこう話す。「教育はすべての根本です。新南向政策が目指しているのは『人を基本に据える』ということであり、それは教育を基本に据えるということでもあります」。タイの台湾企業の二代目である章維斌は、子を持つ親でもある。「台湾からタイへやってきた企業家は、事業だけでなく家庭も顧みなければなりません。家庭と教育が順調で円満であればこそ足元は安定し、事業に取り組めるのです」と言う。
高等教育と技術職業教育は、企業が求める専門人材を提供する。一方、小中学校の基礎教育は、文化や人とのつながりを持たせるものだ。これは目に見えないものだが、将来的に産業に大きなビジネスチャンスをもたらす可能性がある。
「私も同じです。一つは故郷への思いから、もう一つは父が残した人脈から、会社が設備を購入する時はやはり台湾の製品を優先的に考慮します」と話すのは、同じくタイ中華インターナショナルスクールの理事を務める張玲琴だ。章維斌は「一人の生徒が留学すれば、その家族全員が行くことになるのですから、台湾を深く理解してくれます」と言う。学校運営も、台湾の「仲間を増やす」方法の一つなのである。
タイのソンクラーン(旧正月)を前に、タイ中華インターナショナルスクールでは水掛けイベントを行なう。