現場ならではのルポ
現場を知り尽くしたガイド役のこの先生は林立青という名で、現場監督の視線で建設労働者たちの実情をつづってきた作家だ。
最初の著作である2017年の『做工的人(建設労働者)』では、建設現場の現実を赤裸々に描写し、1年目で4万部を売る好成績となった。翌年の『如此人生(かくの如き人生)』では、風俗業の実情や労働災害についても取り上げ、その批判や訴えはさらに力を増した。華文市場では貴重な新星の出現と言える。
実は林立青は、2012年からFacebookで文章を発表しており、最初は職場で遭遇した出来事などを書いていた。例えば、「中に入ることなくトイレのタイルを貼り換えてくれ」などと要求する客の話などで、「こういうのは工法ではなく魔法と言うべきだろう」と冗談めかして彼は書いている。こうした文章はさして注目も集めず、「わずか8人が『いいね』を押してくれて、しかもそのうち1人は母でした」と彼は笑う。
現場での仕事が長くなるにつれ、林立青は施工主や現場チーム、労働検査員、警察などの間に立って行き来し、労働者たちの暮らしを深く知るようになった。急にお金が必要だと知れば貸したり、違反切符を切られそうなのを見て警察に意見したり、現実を知るほど彼らを放っておけなかった。そして体制への無力感や社会の偏見をひしひしと感じて不眠になるほどだった。彼らのことを書いて社会に知ってもらう、それが彼のできることであり、不眠解消法でもあった。また書けば書くほど書き尽くせぬことがあった。
2016年には「工地八嘎囧世代(工事現場の八家将たち)」を著し、工事現場でバイトする八家将(廟の祭りなどで八家将に扮して練り歩く人々)をルポし、彼らへの偏見を正そうと試みた。
「彼らにとって大企業での就職など意味なく、人生はただがんばって働けばいいと思っているのです。廟に集まって互いに工事現場の仕事を紹介していました。自分に仕事が見つかれば関連の仕事を仲間に回すという具合に。やがて腕をつけると独立して親方となり、工事を引き受けます。稼ぎがあれば神や仲間、寄り添い続けてくれる妻にも感謝を忘れません」
林立青のFacebookには500人弱の「友達」がいるだけだったが、この文章には1万を超える人が「いいね」を押し、1000回以上シェアされた。これに励まされる形で引き続き、檳榔売りの女性についてや、工事現場での鎮痛剤使用の現状など、ほかの作家があまり扱わないような内容を取り上げた。社会から批判の目で見られがちで、しかも知られざる生活を、彼はその目で観察して書いた。社会の周縁にいる人々のための発信は、やがて出版社の注意を引き、林立青は、現場監督という履歴を持つ台湾初の作家となった。
平凡な街の風景だが、林立青の解説を聞くと違う角度から見ることができる。例えば、この写真の右に見える階段は屋外にあるが、これは台湾では非常にめずらしい建て方だ。