新旧融合でパイワン語を
例えば、このアルバムの中で李英宏とコラボした「無奈(仕方ない)」は、パイワン族の間で流行しているtjakudain(じゃ、どうすればいいの?)という言葉と、台湾語の「恁毋答応(受け入れてくれないだろう)」を呼応させ、パイワン族と漢民族の間の許されない愛を描いている。中段の高音の部分では、パイワン族に伝わる「無奈歌」を取り入れた。
「1-10」という歌は、アバオの母親である愛静が作詞した。パイワン語の1から10までの数え歌で、パイワン語の教材とも言える。
新旧融合とは言っても、古い調べがすべてふさわしいわけではない。例えば、アバオは伝統の祭祀で歌われる歌などは使わない。「用もないのに祖先の霊を呼ぶわけにはいかないでしょう。コンサートのたびに降りてきていただくわけにはいきません」と言う。アバオがポップスに取り入れるのは、日常生活で歌われる「この世の人間の歌」なのである。
アルバム『kinakaian マザータング』は、その軽快な電子音楽やラップと、スタイリッシュなプロモーションビデオ、太陽神のデザインなどから、世界に打ち出せるレベルと絶賛された。あるファンは、パイワン語はまったくできないが、「無奈」の歌詞を機能語、語根、接辞、名詞化などから文法的に詳細に分析した。その真剣さを見て、アバオの母親は「この人は、恋がしたいんじゃないかしら」と言ったそうだ。
「あなたの靴は私たちと違う。あなたの肌もそんなに白くて……」ステレオタイプの文化的シンボルを抜け出したアバオだが、「無奈」の歌詞はパイワン族と漢民族の違いを訴える。伝説の中の太陽の末裔、パイワンの娘は、その美しい歌声で音楽がエスニックの垣根を越えられることを証明している。
Lavuras Matilin 、 the Vusum Hana band
「私たちの言葉はとっても自然/それは本当に美しい」とアバオは母語で繰り返す。聴く人はそこに込められた生命への愛を感じ取れると信じている。(林旻萱撮影)
ニューヨークのセントラルパークでの公演。多くの国の人と音楽で交流した。
ニューアルバム『Kinakaian マザータング』では母語の歌詞に電子音楽やラップを融合させており、世界に打って出る野心が感じられる。