321巷アートビレッジで広がる舞台
2014年、台南人劇団では台北と台南を往復する交通費を節約するために、活動の中心を台北に移したが、李維睦は台南に残った。そして昨年、劇団は台南の321巷アートビレッジに移り、そこに舞台空間を作ることとなった。
321巷には日本統治時代の歩兵工場の宿舎が8棟残っており、台南人劇団はその一つに入居した。宿舎の所有権は国防部から台南市文化局に移転したが、予算がなく、そのまま放置されていた。昨年劇団事務所の賃貸契約が切れたのを機に、文化局に招かれてここへ入居したのである。
新しいオフィスは、庭のある日本時代の宿舎の構造をそのまま利用しており、あらゆる場所が舞台となる。舞台と観客席という固定された空間ではないため、これが既存の概念を打破する最良の環境劇場となった。
昨年、監督の一人である黄丞渝が創作した『你所不知道的台南小吃』は従来の舞台の概念を打ち破った。宿舎内の5カ所を舞台として5つの芝居を同時に上演し、観客は空間を自由に動き回って観賞する。そして最後は物語の流れに従って観客も中央に集まっていく。最初、この構想を聞いたときは不思議に感じた李維睦も、実際のパフォーマンスに感動し、さまざまな空間利用を考えるようになったという。
2014年7月、台南人劇団は「那個劇団」「影響・新劇団」とともに7日にわたって「321小芸フェスティバル」を開催し、観客数を99人に制限して20分の舞台作品を3つ発表した。路地の中の特別な空間で、観客は芝居を見てから宿舎集落の歴史と暮らしに触れることもできる。
今年5月、台南人劇団は再び「321小芸フェスティバル《走X戯・交換記憶》」を開催する。今回は4劇団が参加し、規模も拡大して「劇場夜市」というコンセプトを取り入れる。夜市を訪れて、食べ物ではなく演劇を買うのだと李維睦は説明する。
「空間の運営を通して、時間をかけて力を蓄積していきたいのです」と言う通り、台南人劇団は華灯芸術センターの時代から今日まで、台南にさまざまな演劇環境をもたらしてきた。
「華灯劇団は台南の蘭陵劇坊とも言えます。ここが多くの演劇人を育ててきたのです」と李維睦は言う。かつての華灯劇団の初代メンバーはそれぞれに自分の世界を開いてきた。児童劇団「洗把顔」や実験的な「那個劇団」、そして50歳以上に限定した全国初の高齢者劇団「魅登峰」などは、いずれも台南人劇団のメンバーが創設したものなのである。
台南の演劇観客は30年前は20~30人しかいなかったが、今は毎年1200人以上が演劇を観賞している。台北の1万2000人とは比較にならないものの、人口180万人で、文化的資源の乏しい台南において着実に演劇ファンが育っている。
「遊びから本気へ」と台北芸術大学の朱宗慶・元学長は台南人劇団を形容する。28年来、今もその本気が続いているのである。