台湾最南端の恒春半島、人出の多い観光地を離れて車城を訪れた。台風の暴風圏外で霧雨が降っているが、永在林業の林家鼎‧副総経理は私たちを満面の笑顔で迎えてくれた。

農業は「お天道様しだい」と言われるが、林業にとって大地を潤す雨は、樹木の苗が伸びる天の恵みである。雨がやんで日が差すと草木は急速に生長し、山林の樹木の苗も伸びる。

半世紀の歴史を持つ永在林業は、以前は林務局に協力して造林し、苗木の育成を行なってきた。1990年代に入ると、政府は自然林の伐採を禁じたため事業は衰退したが、10年ほど前、三代目の蔡瑞鴻が事業方針を転換し、同じく林業家の跡継ぎである林家鼎も加わって、それまでとは違うアプローチを打ち出した。

林家鼎は、林業は人生をかけるに値する仕事だと考えている。

新しい林業

「お見せしましょう。あなたがたが想像している林業とはずいぶん違うはずですよ」と言って林家鼎は、今年（2020年）5月に完成したばかりのスマート温室に案内してくれた。ここでは人による作業を最小限に抑え、日照や遮蔽、送風や水やりまですべてコンピュータが制御している。見渡すと、台に管が通り、ユーカリやアカシアなどの苗木がびっしりと植えられている。それほど広くない温室に9万株もあるという。

次に訪れたのは温室の隣にあるおがくず工場だ。永在林業の林業用地は車城郷や獅子郷、恒春鎮の牡丹郷などの標高100～200メートルの地域にあり、合計900ヘクタールにソウシジュやセンダンが植えられている。山林は定期的に枝打ちや間伐をする。径の大きい材木はそのまま利用されるが、廃棄物と見なされがちな枝などは集めて細かくチップ状に砕くと、キノコ生産業者が争うように購入していくのである。

こうした成果は林家鼎の先見の明によるところが大きい。南投県に実家がある彼は、現地のキノコ栽培業が盛んなのに注目していた。キノコ栽培には菌床となる培地が必要で、その主な成分はおがくずである。「台湾ではこの培地を30年にわたって生産しており、毎年5億個の培地が使用されているが、おがくずにすると50万トン分になる。これらの木屑はどこから来るのか」という疑問が浮かんだ。

樹木には伐採すべきもの、伐採してよいもの、伐採してはならないもの、盗伐されたものなどがある。噂では、廃棄された家具の木屑もキノコ栽培に使われているという。家具の多くには化学塗料などが使用されており、それでキノコを栽培すれば食の安全が確保できない。

キノコ生産業者のこうした悩みを解決したのが永在林業だった。彼らは樹木の「株全体」を利用することで廃棄物をなくし、木材の価値を最大限に発揮する。「100％純」の木屑の価格は他より高いが、それでも供給が追い付かないほどだ。

おがくずを固めたキノコ栽培用の培地は、林業に新しい ビジネスの道を開いた。（左の写真は永在林業提供）

「伐採」で地球を救う

環境意識が高まる中、かつての盗伐者の悪いイメージがあるため、人々は「伐採」という言葉に敏感だ。特に都市部に住む私たちは、天に届きそうな大樹を伐採する林業を、乱伐や斜面崩落と結び付けて考えてしまう。

しかし実際はそうではない。林家鼎は林業地の航空写真を取り出して説明する。伐採したばかりのエリアはすぐに復旧造林を行ない、一年後には緑で覆いつくされる。「鉱石採掘などの『開発』とは違うのです」と言う。

例えば、漁業資源が枯渇している今日、養殖業こそ海洋資源の持続可能な発展に貢献できるとされているのと同じである。人類が木材を必要とする限り、原生林の伐採は避けつつ、積極的かつ計画的に人工林を運営するべきなのである。

台湾では年間の木材需要が600万トンに達するが、自給率は1％にも満たない。環境保全が重視される中、大量の木材を外国から輸入することで、輸送による二酸化炭素排出も増加する。また販売過程で取扱者が幾度も変わり、生産履歴をコントロールすることも難しい。さらには違法伐採の木材が紛れ込むこともある。

こうした経緯から、数年前にはマレーシアの環境保護団体が台湾で抗議活動を行なった。台湾はマレーシア第二の原木輸出先であり、それによって熱帯雨林が破壊されていると訴えたのである。この事件から、台湾人はようやく国内の林業に関心を注ぎ始めた。

しかも、すでに少なからぬ研究データが出されている。樹木には二酸化炭素固定効果があるが、樹齢が高まるとその効果は下がり、若い樹木ほどではなくなる。また、木材使用を控えるために、環境を破壊する石油化学製品を使用するのは本末転倒である。樹木は再生可能な資源であり、伐採後に植樹すれば再び大地は緑に染まる。『孟子』の梁惠王上にもこのような記載がある。「斧斤時を以て山林に入らしめば、材木勝げて用う可からず（伐採にふさわしい時期に斧や斤をもって山林に入れば、材木はどんなに使っても使い切れない）」この道理は今も通じるのである。

そして2017年、林務局は30年ぶりに「国産材元年」として人工林産業振興政策を打ち出した。林務局局長の林華慶は「やらなければおかしいでしょう」と言う。確かに地球市民の一員として責任の一端を担い、「伐採」によって地球を救うことは自然な流れと言える。

しかし、台湾の林業は久しく衰退していたため、人材や技術も途絶えており、市場を開拓して産業を振興するのは容易ではない。

そこで林務局は団体戦の戦略を打ち出した。国有林、私有林、または自治体の公有林にかかわらず、すべて「国産材」の名で集団でマーケティングを行なうことにした。

おがくずを固めたキノコ栽培用の培地は、林業に新しい ビジネスの道を開いた。（左の写真は永在林業提供）

林業者のビジョン

困難は多いが、熱帯と亜熱帯にまたがる台湾では、国土の6割は森林で、全面的な調査はまだ行われていないが資源は非常に豊富である。

以前、国産材は質が劣るとされ、鉱山の坑道の支柱などに使われていた。それが最近では、実は国産材は高品質であることが分かり始めている。柳杉は十年も屋外で風雨にさらされても腐敗せず、ソウシジュも欧米で人気が出ている。

大地が無償であたえてくれる資源と向き合い、若い林業者は、生計や利益、市場を模索すると同時に、人と自然との持続可能な共存関係も慎重に考えようとしている。先人たちの「山に寄り添い、山から糧を得る」という生活哲学を再び実践することである。

「会社を100年企業にしたいと思い、経営者として将来性を考えています」と、宜蘭県五結の土地に立ち、昆儀実業の郭宗欽総経理は話す。

昆儀実業は台湾でも指折りの木材処理業者で、将来の国産材市場を考慮して新たに「根源」というブランドを打ち出した。主力商品は、国産のソウシジュ（タイワンアカシア）だ。材質の硬いソウシジュを独自の方法で熱処理すると、物性の安定した良材となる。これを使ったクラシカルで優美な酒樽とアコースティックギターが「根源」ブランドの代表的な製品で、郭宗欽が目指す「100年企業」の価値と相通じるものがある。

一方、今では事業をシイタケ栽培にも広げている永在林業は、FSC森林認証を取得し、さらにOwlTingブロックチェーンサービスを運用して生産履歴を公開している。こうすることで森林のサステナビリティは生産者だけの問題ではなくなり、消費者も認証を確認して商品を選ぶことで環境保全に貢献することができるのである。

林華慶･林務局長は、就任するとすぐに国産材推進政策を打ち出した。局内の応接室にはさまざまな国産材で作った家具や装飾品が展示されている。

ソウシジュ材を用いた各種商品。色に深みがあり、風格が感じられる。

ソウシジュ材を用いた各種商品。色に深みがあり、風格が感じられる。

ソウシジュ材を用いた各種商品。色に深みがあり、風格が感じられる。

郭宗欽は工場の敷地内に自らソウシジュを植えて緑陰へと育てつつ、国内林業の発展を期待している。