紙から始まる実験領域
紙は大自然に材を取るものであるため、鳳嬌でも天然素材に情熱を傾けている。
単なる紙についても、サトウキビ、小麦、もみ殻、パイナップル、コーヒー滓などの素材を加えて、多彩な特性と触感を生み出してきた。中でももみ殻を加えた柔らかな質感の稲禾紙は、デザイナー方序中のプロジェクトの包装紙である。
去年の「勤美学森大」講座において紹介された紙のコートは、水に弱く脆弱な紙の性質を一変させた作品である。鳳嬌の研究チームは台湾の繊維メーカーと協力し、マニラ麻の繊維で紙を作り、これを堅牢で洗濯できる生地として、ファッショナブルなコートに仕立てた。自然界で100%分解できる天然素材のため、環境にやさしいファッションとなる。
自然に親しもうと、研究チームは人があまり注意しない苔にも目を向けた。1500種にも及ぶ苔で、人手をかけずに栽培できる苔の壁を作り、緑豊かな風景を生み出すというのである。この構想はすでに一部のショッピングモールなどに採用され、都会の人の目を楽しませている。
「鳳嬌は創造における催化(触媒)作用を担いますが、将来に向けて自身の位置づけを急ぐ必要はありません」と李依耘が話す通り、鳳嬌は紙から出発して未知の領域開拓の触媒として、多くの可能性を有している。
樹火と鳳嬌の生涯には、悲しい物語が待っていた。陳樹火は生前、心臓病を患いながら、博物館設立をずっと願っていた。その後、台湾から中国大陸への観光旅行が開放された1990年に、陳樹火と陳頼鳳嬌夫妻は、連れだって中国大陸を訪れたのだが、広州白雲空港における事故で、二人とも世を去ってしまった。
しかし、陳樹火の紙文化への思いは家族に伝わり、家族共通の使命として、事故から5年で博物館開設にこぎつけた。
今日の鳳嬌催化室は、博物館が築いた基礎の上に紙の新しい可能性を見出すという使命を帯びて成長を続けてきた。鳳嬌催化室と樹火博物館は、かつて仲睦まじかった夫妻の間柄を思わせるように、互いに助け合い紙文化を広めている。
海外から帰国した李依耘は、家族の思いを受け継ぎ、紙文化を発揚していこうと考えている。
長い歴史を持つ紙は、実用品であるだけでなくアートにもなる。
台北市立美術館の「X-siteプロジェクト:未知の質域」展では、従来の紙の使い方をくつがえし、立体的な空間を生み出した。
鳳嬌の仲立ちで遠くフランスから訪れた工芸家のMaurice Salmonは、50年積み重ねてきた装丁修復の経験をシェアした。(FENKO鳳嬌催化室提供)