台湾のディスコースを確立
台湾の写真出版を論じる時、必ず挙げられるのは『撮影之声(Voices of Photography、略称VOP)』である。
文化部の金鼎賞「人文芸術類雑誌賞」など多数の賞を連年受賞しているインディペンデント系の『撮影之声』は、我が国では数少ない文化、芸術、歴史、社会など多面的に写真の本質を追求する刊行物である。これまでに張照堂、冷戦、韓国などの特集を組み、毎号のさまざまなテーマは創刊者で編集長の李威儀が決めている。
李威儀は2012年から、台湾の写真出版に関して次々と疑問を提出してきた。「台湾フォトブック特集」では、台湾の5人の写真家/評論家が台湾のフォトブックを分析し、2014年の「写真刊誌考」では、台湾と香港と中国の写真雑誌出版の分析を通して写真文化の流れと結びつきを考察、2016年の「視線尋路——フォトブックの方法論」では張世倫や聶永真、龔卓軍らを招き、このテーマにつき台湾のフォトブックをめぐる対談を行なった。
歴史を紐解くというのは膨大な作業であり、特に台湾では写真に関する資料が乏しく、この50年の間に写真界で起こったことについてもゼロから資料を集めなければならない。李威儀によると、彼らはしばしば図書館に通い、史料の中から手掛かりを探しているという。
台湾では地元の写真に対する認識が不充分であるため、『撮影之声』の香港の読者に香港の写真史の執筆を依頼し、ここから対話を生み出したいと考えている。また韓国の写真界に関する知識がないことから特集を組み、韓国の国立現代美術館のキュレーターである宋修庭に編集顧問を依頼した。そして一挙に韓国の写真家10人を紹介し、3つの記事で90年代から今日までの韓国の写真の発展を論じるとともに対談も掲載した。李威儀は、毎号の特集や企画は自分を忙殺するものばかりだと笑うが、やるからにはチャレンジするべきで、それが彼の興味なのだという。
創刊から7年、李威儀が関心を寄せるテーマには常に大きな反響が寄せられてきた。将来的には『撮影之声』が一つのプラットフォームとなり、そこでの多様な議論が台湾の写真ディスコースの養分となることを願っている。英語の雑誌名を『Voices of Photography』と言う通りである。Voicesと複数形にしたのは郭力)}のアドバイスで、百家争鳴を意味する。これこそ台湾の写真界が求めているもので、さまざまな角度から写真をとらえ、解釈していくことなのである。
さらに李威儀は、将来的に雑誌の内容を立体化したいとも考えている。毎号、雑誌で紹介するアーティストの展覧会を催していくという考えだ。今年の初めには郭力昕の写真評論集『製造意義:現実主義撮影的話語、権力与文化政治』を出版し、張照堂の文集も出版する予定である。さらに東南アジアに隣接する台湾は、近隣諸国の写真の現状も知る必要がある。来年度の東南アジア写真史出版に向けて翻訳作業が続いている。
論述の形成は蓄積の過程であり、急ぐことはできない。台湾において写真資料が分散し整理されていない状況を見て、曹良賓は写真図書館を設立した。すでに3000点に上る資料をコレクションしているが、それらは多くの有志から一冊一冊寄付されたものである。一方、インディペンデント出版の『撮影之声』は、第4号から読者の定期購読を受け付け始めたが、これは発行者にとって大きなプレッシャーだと言う。「定期購読は、私と読者が約束したのと同じで、このプレッシャーがあるからこそ読者が期待しているものを完成させなければならず、それが雑誌発行を継続する動力になっているのです」
曹良賓の写真展『想像之所』は両面のライトボックスを用い、非線形、複数の作者などの形でコンセプトを空間に置き換えた。(曹良賓提供)
書籍は左右の見開きによって視覚的な衝撃を生み出すことができる。(『撮影之声—高重黎特集』)
曹良賓が創設した「Lightbox撮影図書室」は台湾の写真資料の重要なリソースである。(林格立撮影)
李威儀が創刊した雑誌『撮影之声』は、彼自身の興味によって毎号のテーマを決めている。(林格立撮影)
私にとって写真とは、日常のつまらない、気がふさぐ、どうしたらいいのかわからない、そんな瞬間を凝視に変え、無言の感性の空間へと変える過程である。(『撮影之声』張照堂特集より)