笑いと涙の芸術
「師匠の相聲は、幼いころからの修練で生活の一部となっていました」と言う通り、呉兆南は相聲の基本技13種を融合させ、自在に扱えるようになっていた。「私たちが苦心して一段をさらっていたのでしたが、どうにも味が少し足りないのです。それが師匠が何気なく一言、気を入れろというだけで、味わいが出てくるのです」と、その確かな技には弟子たちも敬服するしかなかった。
「相聲というのは、相は顔つき、聲は話す声ですが、聲は相より重要です。相聲とは相の聲で、相は聲の一部です」と話す。昔の人は映像のないラジオで相聲を聞いていたが、それでも聴衆を魅了できたし、演者は声で世界を構築し、聞き手の想像力が補完して芸を完成させたのである。
「相聲はまず気を整え、口伝えで芸を伝えていきます」と、相聲の訓練に話が行くと、劉増鍇は興が乗ってきた。話の速さ、声の高低に気を配り、語気を整え表情豊かに、感情を込めるには、厳しい訓練が必要となる。成功に近道はなく、すべて練習を重ねるしかない。
「説(話術)、学(物まね)、逗(笑い)、唱(芝居などの一節を歌う)が相聲の演者の基本技です」と言われる。相聲は話芸とは言うものの、総合的な演技が必要で、話術が相聲の必要条件であるが、時には物まねも必要となる。天文地理の知識に加えて、各地の方言や外来語も喋れなければならず、さらに舞台に上がれば時に京劇の一段を歌うこともある。「だから、相聲が達者であれば、何でも演じられます」と劉増鍇は言う。
観客を笑わせるには技術と経験が必要で、それは相聲の要となるものである。多いのは自分を揶揄うネタだが、大げさな動作もあって、観客の大笑いを誘う。またピリッと聞いた諷刺も、聞き巧者には共感と笑いを誘う。
「経験豊かな演者は、観客の雰囲気からどこで何を話すべきか分ります」と、芸達者な演者は舞台の話術で観客の気持ちを操り、架空の世界に連れていく。それはずば抜けた記憶力と、臨機応変な機知が頼りで、長い年月をかけた訓練の賜物なのである。
公演「相聲啓示録」は「呉兆南相聲劇芸者」の劉増鍇社長が相聲の伝統を守り続けた30年を振り返る内容で、劉増鍇はめずらしく女装して出演した。