アトリエ「樑露工房」
「小艾」の隣も築百年の古い家屋で、芸術家夫婦が暮らしている。木工職人の陳俊位と植物染めを教える潘瓊慧の二人だ。家主のところへは、この家を借りて民宿やレストランを開きたいという申し出があったのだが、家主は芸術家夫婦が気に入り、改修費用も出してくれた。
2人はこの家を「樑露工房」と名付けた。樑は大木の意味、露には恩恵の意味があり、種子が天地の恩恵を吸収して大樹に育ち、社会にお返しができるようにとの思いが込められている。中に入ると、両側には作品を陳列する空間とアトリエがあり、さらに奥は関聖帝君を祀る厨房で、ここはお客をもてなす場となっている。さらに奥には陳俊位が夢見ていた別世界の三合院(中庭のある伝統の民家)がある。
「以前から、三合院で電力を使わない木工を教えたいと思っていたのです。コミュニティカレッジで教えるようになって、教室は作業にふさわしくないので、三合院の中庭で授業をし始めました。コミュニティカレッジで教えてもお金にはなりませんが、重要なのはシェアすることです。生徒たちが来ると、うれしくなります」
二人はこの家を見まわし、笑みを浮かべてこう話す。「この柱の歴史は百年です。新しくすることも考えたんですが、今の建材はこれほど強くないかもしれないと思いまして」陳俊位は、多くの人は歴史遺産の貴さを理解していないと言う。廟の修復などでも、取り外した柱が雑に扱われているのを目にすると胸が痛む。そこで彼は、取り外した窓枠をほぞでつないでテーブルにし、古い建材をよみがえらせた。
鹿港に暮らすことが創作に影響を与えているかどうかと問うと、彼は神卓を指差してこう話す。「以前は、鹿港の木工はラインが複雑すぎて古臭いと感じていましたが、今はその背景に意味があることが分かります」古い町の静かな雰囲気の中、彼は妻が得意とする植物染めを作品に取り入れて「湛藍‧染樑凳」という椅子を作り、ドイツのレッド‧ドット‧デザイン賞を受賞した。潘瓊慧は、鹿港の名産である緑豆の落雁のデザインをクッションに取り入れた。「以前は創作のために創作することもありましたが、今はこの環境から良い影響を受けています」と言う。
木工の技術に長けた陳俊位は、南投県で古い民家の修復に携わったこともある。