一人一人へのまなざし
丞舞製作団隊B.DANCEのダンサーである張堅志は、蔡博丞とは高校から大学までずっと同級生だったが、深く関わり合ったのは2014年の『浮花』からだった。丞舞のマネージャである許慈茵は「博丞が徐々に堅志の別の一面を引き出したと同時に、堅志も振付に多くの還元作用を及ぼしました」と言う。
やはり団員である張瑀は、昔から自分をさらけ出すのが苦手だった。ある日の練習で蔡博丞が急に「じゃ、電気を消してみよう」と言った。張瑀の内面を導き出すためで、結果、彼女は泣き出してしまった。「なぜだかわかりません。でも、気持ちを発散させた後は踊りに思いをぶつけることができました」これは学校では教わることのなかったもので、細やかな観察力を持った人間だけが導き出せるものだった。この体験は彼女のダンスを大きく飛躍させた。
まして蔡博丞は踊りに文句をつけたりしないし、そのような眼差しすら浮かべることもなく、いつも「いいよ。とてもいいと思うよ」と言うだけだ。同じく丞舞のダンサー、黄依涵はこう言う。「どの作品もソロで踊る場面があって、私はスローなテンポでは静かで神秘的な感じですが、速くなってくると自分の不安定で衝動的な個性が出せます。博丞はいつもダンサーに、何かを試みたり打ち破ったりする機会を与えてくれるので、とても気持ちがいいのです」
彼はいつも綿密に準備していると張堅志は言う。「3時間の予定だと聞いていた練習が、たいてい1時間半で終わります」張がこれまで出会った振付家は5~6時間かけるのが普通なのに、蔡はいつも短時間で難しい作品を完成させる。これは、練習方法の確かな把握と、ダンサー一人一人への観察力がないとできないことだ。
また、丞舞の巡回公演も、ダンサーへの細かい心遣いが感じられる。張堅志によれば、ほかの劇団の公演では、ベッドやシャワーなどの設備が悪くて悩まされることがあるが、丞舞は食事も宿泊もダンサーのことをよく考えてくれているという。ダンサーにはダンスに専念してほしいという蔡博丞の願いから最も良い環境を提供するのであり、こうした細部の一つ一つは団員同士の信頼や尊重の中で育まれてきた。
丞舞製作団体はフランスからアントニン・コムスターズを招いてレッスンを受けた。(趙奕睿撮影)