色と香りと味
「料理好きにとっては、食材の仕入れから調理が始まっているのです」というチェリーの言葉は、家庭で料理をする人の思いそのものだ。
この日のシェフ、玲玲さん、陳さん、呉さんの3人は早めに厨房に入った。彼女たちはそれぞれ家の近くの市場や商店で仕入れた肉や野菜、そして自家製の調味料などを持ってくる。
午後4時、ホールにはまだお客はいないが厨房では作業が始まる。
3人とも店を開いた経験はないが、プロの料理長であるジミーが全体の指揮を執る。ジミーは映画監督のように号令をかけ、年配のシェフたちにガス台を使う順番などを指示する。ジミーは全体に注意を払いながら機動的にサポートもする。
お客が入り始める頃には、最初に出される冷菜(この日は陳さんお得意の酔鶏)が完成している。
食事が始まる前に、オープンの儀式が行われる。チェリーがお客に店の理念を説明し、今日のシェフである3人を紹介するのだ。
この儀式が終了すると厨房は忙しくなる。焼き物、煮物、炒め物、揚げ物と次々と完成した料理がホールに運ばれる。最初の冷菜に続いてスープ、ご飯や麺類、肉、魚、豆腐などの料理が次々と提供される。
シェフは途中でホールへ出ていき、各テーブルを回って挨拶する。
この時、年配のシェフたちはまさに大物シェフのように輝き、お客から賞賛の言葉を浴びる。彼女たちも、家のお母さんのように「たくさん召し上がってくださいね」とお客の一人ひとりに声をかける。
この日、3人のシェフは皆おめでたい赤い服を着ていた。厨房とホールのにぎやかさは、まるで大家族の春節の食卓のような雰囲気だ。
突然気が付いた。食憶での食事は、まるで演出された不思議な場に参加したかのように感じられるのだ。エスニックや世代を越え、おいしい料理を囲めば、誰もが家を想い出す。
シェフが各テーブルを回って挨拶し、お客から賞賛の言葉を浴びる。(林格立撮影)
レストラン食憶の看板料理、陳さんの紅露酒漬けの酔鶏。
呉さんが作る冬瓜とスペアリブのスープには金華ハムが入っていて、平凡に見えるが深い味わいがある。
食憶は、いま流行の「プライベートキッチン」「メニューのないレストラン」「シェアキッチン」「シニアエコノミー」「エクスペリエンス・エコノミー」などの要素を結び付け、プロレベルのレストランを実現した。
チェリーの企画で「食憶」はグルメの間で知名度を高めている。
シェフの陳さんを手伝うジミー(左)。世代を越えた協力が実現した。
「食憶」の存在は、家で料理を作って待っている人を思い出させる。