台鉄弁当の美味しさの秘密

「お弁当、お弁当、排骨弁当はいかがですか」車内販売員がワゴンを押して弁当を売る光景は多くの台湾人の共通の記憶だろう。弁当を開けると、大きな排骨と丸い煮卵があり、ご飯の香りが漂う。ある世代以上にとっては、列車に乗ればこれを食べないと旅が終わった感じがしないほど、懐かしく定番の味だ。

70年の歴史を持つ台鉄弁当は、変わらぬ味の排骨が目玉だ。当初の弁当は20元だったが、物価上昇とともに90年代には60元に、そして1995年には80元のややリッチな排骨弁当も加わって、今は60元と80元の価格を維持している。

価格は抑えても中身は充実している。60元の排骨弁当は、四角い容器に排骨と煮卵、味付けされた湯葉、キャベツ炒めが、十分な量のご飯の上に載せられており、この物価高の時代に60元とは思えない充実ぶりだ。おかずがもっとほしければ、80元の八角排骨弁当や100元の懐旧排骨菜飯を選んでもいい。

新鮮で高品質の食材が台鉄弁当の美味しさを支える。ご飯は台湾産の一等米を用い、新鮮さを重視し、春節休暇中でも毎日コメを仕入れる。品質確保のため、弁当を作る「台北鉄路餐庁」のシェフ、余巡安さんはコメの品質の見分け方を学ぶ研修を受けたほどだ。コメの仕入れの際には、拡大鏡による検査や重量測定で砕粒や不完全米の比率を計算し、国家規格CNSの「一等米」の基準に達しているかを調べる。また、コメの収穫期に合わせて炊飯方法も調整し、ご飯の適切な柔らかさを保つ。こうしたこだわりがあるからこそ、台鉄弁当のご飯は冷めても美味しい。

売れ行きトップの排骨弁当は、製造過程も念入りだ。余巡安さんによれば、豚肉は調理の前に5～6回叩いて筋を断ち、決して軟化剤などは使わない。味付け後に更に肉を揉み、揚げてからタレに漬け込む。台北鉄路餐庁では1日1万2000枚の排骨を作るのに、朝から晩まで肉を叩き続ける2人の専属スタッフがいる。「まな板を何枚割ったかわからないくらいです」と余さんは笑う。

宜蘭の桜桃鴨風味弁当

台鉄弁当の新たな味

伝統の排骨弁当のほかにも、鉄路局は各地で特色ある弁当を販売している。七堵駅の「宜蘭桜桃鴨弁当」は、宜蘭名物の桜桃鴨とキンカン、三星葱を使った炒り卵が入っており、ローカル色たっぷりだ。ただ、こうした弁当は車内販売されておらず、各地の台鉄「弁当本舗」に行って買わなければならない。数に限りがあるため、すぐ売り切れてしまうことが多く、ネットでは「幻の弁当」と呼ばれたりもしている。

特別な祝祭日やイベントなどには、限定弁当も発売される。昨年11月の第5回台鉄弁当フェスティバルでは、台中鉄路餐庁の「プロバンス風ローストチキンレッグ弁当」や、花蓮餐務室の「花蓮風スパイシー･チキン弁当」など創意あふれた弁当の数々が登場し、日本から来た20数種の駅弁と比べても遜色はなかった。

台鉄弁当は車内だけでなく、各地主要駅の「弁当本舗」でも売られており、列車の形をした店舗もある。台鉄弁当の人気は高く、売り上げは年7億に達する。その魅力をさらに高めようと、台鉄局は昨年、専門の運営センターを立ち上げた。

花蓮･台東の塩豚野菜弁当

鉄道のタイムトンネル

台鉄弁当が人々の思い出の味だとすれば、彰化社頭にある福井食堂も鉄道の記憶を集めており、思い出をかみしめながら弁当が食べられる。

社頭駅を出て500メートルほど行くと踏切の傍らに駅名板が見える。駅名は「福井」、隣駅は「幸福」「平安」と書かれている。そこが鉄道をテーマにした福井食堂だ。ブルーの列車を模した入口を入ると、深緑色の列車の座席があり、壁の上部には網棚、その下には車窓も描かれている。座席の横には、列車のように座席番号が書かれ、昔の列車にあった飲み物を置くスタンドまであって、まさに列車内そのものだ。

ほかにも、さまざまな列車の模型やフィギュア、そして台鉄が毎年限定発売する金属製弁当箱がずらりと並ぶ。何十年に及ぶコレクションに違いない。壁の絵、流れる音楽など、どれも鉄道に関するもので、鉄道ファンのオーナー、陳朝強さんのこだわりが感じられる。

陳朝強さんと鉄道の縁は、生まれる前からの定めだった。父、祖父、祖父の兄弟たちも、台鉄の運転士で、自分も二水にある台鉄の官舎で生まれ、列車の音とともに育った。鉄道が好きなのは呼吸するのと同じぐらい自然なことだった。

幼い頃はおもちゃも電車ならお気に入り、大きくなると模型を集めるようになった。最初は父親が喜んでくれるだろうと買い始めたのが、そのうちコレクションの範囲も広がり、列車長が持つカバン、帽子、懐中時計、記念酒、制服、廃車になった列車の部品、「改札室」と書かれたプレートなど、あらゆる関連グッズに及んだ。

屏東で大学に通う間に飲食店でバイトして、メニューを考えるノウハウを学んだし、そこが支店を開いて経営を軌道に乗せるのも手伝った。卒業して兵役を終えると、親孝行したくて故郷に帰ることにしたが、学生時代の経験や鉄道への情熱から、鉄道をテーマにした飲食店を開くことはすんなり思いついた。

日本風シャケ弁当

食堂で果たす鉄道への思い

福井食堂は地元住民を主な顧客とし、リーズナブルな価格で売る。オーナーでありシェフでもある陳さんは、地元の食材を用いて、排骨、豚の角煮、チキンレッグ、魚のソテーなど10数種類の主菜に、毎日異なる副菜を合わせる。「毎日昼と晩に同じ主食の弁当を買っていくおじいさんがいるので、健康に良いように毎日献立を工夫しています」と陳さんは笑って言う。

福井食堂では食事だけでなく、2～3階の鉄道文物館も見逃してはいけない。陳さんの30年来のコレクションが展示されている。1960年代の時刻表、列車運転士の勤務サイン表、駅に掲げられていた標語板、改札口の木製扉、日本統治時代の鉄道設計図まである。鉄道の発展史を物語るこれらを陳さんは無料で公開している。

グッズだけでなく、陳さんは列車まで買ってしまった。店外に展示してある、台湾糖業鉄道の135号巡回車がそれだ。資源回収業者から2015年に買い取ったもので、50万元と762日間かけて修復された傑作だ。当初、車体は錆びて腐食がひどく、エンジンも壊れており、鉄屑になる寸前だった。バスの車体修理を専門とする詹永富さんにお願いし、錆び取り、骨組み補強、板金と、少しずつ修復していった。詹さんは修復にこだわりが強く、元のエンジンの姿を留めようと部品を探し回るほどだったと、陳さんは言う。二人の努力でこの巡回車は生まれ変わり、63年という車齢にも関わらず、渓湖製糖工場で実際に走らせることも実現させた。

鉄道への思いと実直な人柄のせいか、陳さんは国内外に多くの鉄道ファンの友人がいる。日本でプラモデル店を経営する杉本誠司さんは、福井食堂と135号巡回車の模型を作ってプレゼントしてくれた。漫画家の康学鳳さんは巡回車のために専属キャラクター「小巡」を考え出してくれた。大阪在住の鉄道ファン、桜井清美さんも毎年必ず福井食堂を訪れる。口コミで評判が広がり、福井食堂は台湾と日本の鉄道ファンの必見の場所になっている。

きのこベジタリアン弁当

自然との結びつき

鉄道は、人と人とを結び付けるだけでなく、人と大自然をも結び付ける。

林務局と台鉄局が共同で生み出した里山動物列車は、通勤電車の車体に、山林、河川、水田湿地、村という4種の里山生態系が描かれ、そこに生息するタイワンオナガ、カニクイマングース、ハクビシンなども、愛らしいイラストになって、まるで乗客を歓迎してくれているようだ。

車内も天井から床、吊り革にいたるまで絵で埋まり、里山動物のイラストを配した身長計も描かれている。また、台湾産木材で彫られたベンガルヤマネコの立体像も座席に座っていて、通りかかった客が頭をなでていく。見上げると木彫のタイワンゴシキドリがいるかもしれない。しかもこれは観光用列車ではなく、普通の通勤路線を走るので、運よく乗り合わせた地元の人にも人気だ。お母さんが隣の子供に「今日は森の中に来たわね」などと言っているのを見かける。

「里山」という言葉は、最近よく耳にするが、「里山」とは地名ではなく、低海抜地の人里に近い山や丘陵、草原を指し、そこには二次林や渓流、畑などがあり、そこに生息する野生動物を里山動物という。里山には人も頻繁に出入りし、集落や道路を作るので、動物の生息地を分断したり孤立させて動物の移動を阻んだり、道路を渡る動物を車でひいてしまったり、或いは動物が農薬や毒餌を食べてしまうこともある。そこで、国土生態グリーン･ネットワーク･プロジェクトが立ち上がった。

林務局が、農業委員会のほかの部門や、交通部、経済部、内政部などの省庁、そして地方自治体とも協力したプロジェクトだ。それは、東西に流れる河川に沿って造林し、動物たちが通る回廊を作ったり、高速道路周辺にネットをめぐらしたりして動物が路面を渡れなくするとともに、動物を高架通路や地下道に誘導して道路を渡れるようにするものだ。或いは、自然にやさしい農業を推進し、生態系の維持に努める。

里山動物列車は、人々と生態とを結びつける場となっている。生態のさまざまな様子が車内のモニターで見られるし、或いはQRコードを読み取れば、我々と同じ大地に暮らす生物たちについて詳しく知ることができる。林務局の管轄下にある各林区管理処でも、里山動物列車に関連した生態ガイド･プログラムを企画してきた。

第5回台鉄弁当フェスティバルのPRビデオで、作家の劉克襄がこんなことを語っていた。彼は鉄道利用時には必ず駅弁を買って乗り、それを食べながら風景を楽しむ。そしてひと気のない小さな駅で下車し、ゆっくりと散歩したり山に登ったりして、そこにどのような暮らしや風景があるかを見て回ると。

里山動物列車に乗って「生態の旅」に出かけてみるのはいかがだろう。すばらしい鉄道の旅がそこから始まるかもしれない。

台北駅地下一階の空港MRT通路に設けられた弁当本舗は古い列車の形をしており、人目を引く。

台湾鉄路局は弁当フェスティバルで昔の鉄路レストランを再現した。

鉄路弁当のおいしさは、新鮮で質の良い食材と料理人たちの思いが支えている。

福井鉄道文化館ではレトロな旅が楽しめ、鉄道文化を保存しようという陳朝強の強い思いが感じられる。

福井鉄道文化館ではレトロな旅が楽しめ、鉄道文化を保存しようという陳朝強の強い思いが感じられる。

福井鉄道文化館ではレトロな旅が楽しめ、鉄道文化を保存しようという陳朝強の強い思いが感じられる。

陳朝強は、弁当のわずかな売上をすべて鉄道文物のコレクションに投じてきた。

列車に描かれた里山の動物たち。

国産の木材で作られたベンガルヤマネコの彫刻が、座席に座って乗客を待っている。

鉄道の旅の良さは美食と景色、そして自然とともにある喜びにある。