iCHEFとママックの出会い
マレーシアの食と言えば、多様なエスニック料理で知られるが、最も特徴的なのはママックである。街の通りに面した空地などに数軒の屋台が並ぶママックでは6~8リンギットで食事ができ、多くのサラリーマンが利用している。
さらに近年は、ビジネス街の駐車場などに洒落たフードトラックが出るようになった。これはMSA(Mobile Food Trucks and Street Food Association)が組織するもので、iCHEFにとってマレーシアでの最初の顧客となった。
iCHEFというのは、iPADを用いたPOSシステムで、POS(point of sale)は小売店や飲食店で商品の販売時点で商品情報を管理し、顧客の購買行動の分析にも用いられるシステムである。
2016年10月、iCHEF東南アジア市場事業発展ディレクターの余岳勲は事業拡大のためにクアラルンプールに赴任した。それまでに、iCHEFは香港やシンガポールにも進出しており、クアラルンプールは海外で3番目の拠点である。
クアラルンプールの人口は700万人で台北エリアにほぼ匹敵する。飲食業は多様で発達しており、市民の外食率は20%と市場は大きい。
現地のレストラン事情を理解するために、余岳勲は1カ月で600店近くの飲食店を訪れ、現地の飲食業界でもPOSシステムがかなり理解されていることがわかった。
2015年、マレーシア政府は飲食業に6%の営業税を課すこととなり、これがPOSシステム変換の大きな流れを起こしていた。そのためライバル企業であるStorehubやSlurpのシェアが大きく伸びており、iCHEFが2016年に進出した時には大きな壁にぶつかった。
「たくさんの市場を見て回りましたが、iCHEFの強みはレストラン業務の核心に沿った専門性の高いPOSシステムです」と余岳勲は自信を持って語る。開発当初、エンジニアは1週間にわたってレストランに泊まり込み、現場の実務を観察して作業工程を理解し、システムを調整していった。また彼らはPOSシステムの性能を高め、さまざまなデータの分析を可能にした。毎日のレポートの他、人気商品やピークの時間帯、顧客の属性なども分析し、データにしたがってマーケティング戦略を調整することができる。
飲食業を営むアビゲイル・リムは、オーストラリアのカフェチェーン、パティセッツに加盟すると、すぐにiCHEFのシステムを導入した。その話によると、iCHEFはレストランの作業工程を十分に理解した上で設計されており、操作しやすく、デザイン性も高く、彼女の店のスタイルにぴったりだと言う。
マレーシアでの知名度を高めるため、iCHEFは東南アジア最大のフードトラック連盟MSAと協力関係を結んだ。MSAは若者たちによる屋台トラックのグループで、彼らは屋台のイメージを変え、フードトラックを都市の風景の一つにしたいと考えており、この理念がiCHEFの考えと一致した。またシステムは軽くて操作しやすく、フードトラックにマッチするというので意気投合し、iCHEFはMSA指定のパートナーとなり、わずか1カ月の間に、6台のフードトラックがiCHEFのシステムを導入した。
現地で孤軍奮闘する余岳勲だが、困難な中でも楽観的なビジョンを描いている。「iPADは年間1000店の規模でシェアを広げていくと見られるので、その3~5割のシェアを取っていきたいと考えています」と語る。
iCHEFは東南アジア最大のフードトラック連盟MSAと協力関係を結び、正式にマレーシアに進出した。