共通する記憶の不安定性
このように王湘霊は、展示作品を反復、交錯、混在(本人が撮った写真とファウンド‧フッテージ)させることで、鑑賞者とともに不安定な記憶を共有する。一般的な写真が「かつてここにいた」という同質の記憶を呼び起こすものだとしたら、王湘霊は曖昧で不安定な画像を通して時間に亀裂を入れ、従来とは異なる時間観へと脱構築していると言えるだろう。
同じように、仄暗さや写真と音声という性質を持ち、内面と関わる作品を生み出すアーティストがいる。写真家の李岳凌は、街角での撮影という方法で、場所の特質をより供えた作品を通して台湾が彼に感じさせるカオスを表現する。彼は街角でとらえた画像と、特別な書籍編集を通して、音の暗さと不安定な連想を導き出す。一方、王湘霊は、空間の配置といった手法で定義の困難な状態を作り出す。彼女は、より抽象的で目に見えない画像を通し、日常において忘れがちな人々の記憶の欠片を呼び覚ますのである。
王湘霊の『快要降落的時候』は「仄暗い黒」と「投影した光」の弁証に満ちている。ここでは、暗黒は画像の形式的な表現にとどまらず、画像を配置する根本的な条件となり、投影された光(画像)が成立する条件が黒い空間であることに気付かせる。暗黒の中で手探りすることにより、私たちは同質の線状の時間の裂け目から不安定な例外的時間観を想像し、そこから現実を感じ取ることの可能性を新たに構築できるのである。