海外の人材はどこへ行くのか
だが、華瑋;教授がこうした西洋式管理を評価するのに対し、かつて香港バプティスト大学伝理学部長を4年間務めた汪琪;教授は、違う意見を持つ。
汪琪;教授によると、香港の学界が重んじるのは競争力で、経営的色彩が濃い。こうした方式は、技術や商学の領域では有効かも知れないが、社会人文系の発展にはふさわしくない。
香港の大学は、さまざまな功利的な評価指標による管理を行なっている。例えば、国際刊行物に論文を発表した数、外国人学生の割合、産学協力の成果などだ。さらには卒業生の職位や給与まで評価の対象となり、市場志向が非常に強い。
香港では「いわゆる『人材』とは、ペーパーを生み出す人です。ですから、市場の主流価値に合わないものは抑圧されます」というのが、汪琪;教授が昨年香港を後にし、台湾の政治大学の講座教授になった理由のひとつである。
香港は台湾の学界から人材を引き抜くだけでなく、海外の台湾人をも狙っている。例えば、台湾の成功大学出身でノーベル賞を受賞した朱経武を香港科技大学の学長に招き、また世界的に有名なメディカルエンジニアリングの専門家で台湾大学出身の張信剛を香港城市大学の学長に招いている。
近年、香港の大学のランキングは急上昇している。2007年の世界の企業経営者によるランキングでは、アジアの大学トップ10に香港の大学が2校入り(1位はシンガポール大学、2位は台湾大学)、さらに巨額の奨学金を出して中国から優秀な学生を集めている。
今年、台湾の中央研究院はアメリカで卓越した業績をあげている台湾出身の学者を4名招く予定だったが、それらの学者のうちの3人は中国、香港、シンガポールの学術機関から高待遇で引き抜かれてしまい、帰国の意志を示したのは一人だけだった。ここからも、人材争奪戦における台湾の弱さがうかがえる。
これについて中央研究院の翁啓惠院長は、台湾は法的制限が多く、待遇が低すぎ、国際化レベルが不十分なので、人材争奪で劣勢に置かれると述べている。また、近年は台湾から海外に博士留学する学生が減っており、海外在住の人材が減りつつあるのも台湾の将来に不利な要素の一つだと言う。
しかし翁院長によると、中国や香港、シンガポールが人材争奪戦の最大のライバルであるのは確かだが、海外から人材を招聘する際に最も多く見られるのは、人材がアジアへの戻る意欲を持たず、アメリカに留まることだと言う。東アジアの政治環境や生活環境、法令や待遇は、世界の一流機関と比べると、やはり大きなギャップがあるということだ。
自分のため、国のために
グローバル化の時代、「国境を越えて移動する能力」こそ、実力と野心を持つ人材が自分の力を試す最良の基準となるようだ。しかし、人材は国家発展の根本でもある。台湾が人材獲得競争における劣勢に対応し、長期的な競争力に不安を残さないために、政府は多数の対策を打ち出している(19ページの記事を参照)。
人材に国境はない。突き詰めれば、より繁栄した経済と質の高い生活、そしてより開放的な社会こそ、人材を国内に留める唯一の要素であろう。人材確保は国力に関わるのだから、台湾は旧来のやり方を突破し、変革のスピードを上げていかなければならない。