父の執念を受け継ぐ息子、李育倫
60余年にわたって唇音楽に打ち込んできた李貞吉の衣鉢を継ぐのは息子の李育倫である。娘と息子が幼かった頃、李貞吉は口笛を吹きながら相手をしていた。その頃から李育倫は父の唇の形を真似していて、4歳の時に初めて口笛を吹いて父を喜ばせた。7歳の時には、特に練習もしなかったのに、父とステージに上がってクワイ河マーチを演奏して、満場の喝采を浴びた。
その一方、小学校で口笛の演奏を買って出た時には、「そんなもの音楽ではない」などと皮肉な反応が返ってきて、その後は人前で口笛を演奏しなくなった。
そうした中、ある日、李貞吉が「陽明春暁」を練習していると、傍らの李育倫が突然合せてきて、しかも父以上に完璧にこの曲を演奏したのである。「私もまだ完成していないのに、おまえは完璧に演奏できるではないか」と、父は息子をステージに誘ったという。
父と子が名曲「口笛吹きと犬」を演奏する時の愉快な表情や身振りは観客の笑いを誘い、二人の仲の良さに感動し、忘れがたいステージとなる。
ステージを下りても、父が口笛を吹けば、息子はその気持ちを察するという。父子の絆の深さが見て取れる。
李貞吉が唇音楽の代表的人物なら、跡を継ぐ李育倫は幼い頃から合唱団に入り、中国音楽のみならず、クラシック、ジャズやポピュラーとジャンルを問わず唇音楽として演奏し、人体の発する最も原初の音で人々を感動させる。
マクドナルドのCM音楽に使われた口笛は耳に残り、映画「健忘村」の音楽も李育倫の唇音楽である。また唇音楽のジャズアルバム「唇音楽チャネル——Make Me a Channel」も制作し、さらには音楽仲間と唇トリオ・バンドを組んでいる。
李育倫は教育にも力を注いでいる。出版社と協力して、口笛音楽の技法を分かりやすい図やイラスト入りの教材として出版した。これを使えば、一般の教師も口笛を教えられるという。これに加え、両岸口笛コンテスト参加者の育成にも力を注いでいる。
李貞吉と李育倫の父子は口笛を国立音楽ホールの舞台に載せた。(李貞吉提供)