今年5月に米ヨセミテ国立公園のオフィシャル･サイトは、牟宗瑋の作画の写真をメインに取り上げ、今年の夏にこの芸術家を招き、訪問者と共に絵を描くと予告した。

ヨセミテ国立公園の壮麗な大自然は、牟宗瑋が愛してやまない題材の一つである。写真はクラウドレスト山。

セザンヌの作品とともに展示

今年7月にヨセミテ国立公園に招かれ、8月にサンフランシスコ･ベイエリアに戻ると、牟宗瑋はユニオンスクエア近辺のギャラリーに招かれて作品を展示した。ギャラリーには印象派の画家セザンヌ、メキシコの画家ディエゴ･リベラ（フリーダ･カーロの夫）など、美術史上の大家の作品が並び、小さい頃から憧れてきた画家と同じ場所に展示できたことを牟宗瑋は心から喜び、フェイスブックにその喜びを書き込んだ。

こんなチャンスを掴んだのは、サンフランシスコにおける11年の努力の結果である。

台湾の保守的な家庭に育った牟宗^٣は、小さい頃から絵本が好きで、絵筆をもってあれこれ描くのが楽しかった。高校は台北市立士林高級商業職業高校広告デザイン科に進学し、色彩学と写真撮影を学んだ。絵を描くのが大好きな彼女は、自由な絵画創作を大胆に試み、父の支えもあって、様々な素材を試し、枠にとらわれないスタイルで若い頃から高い芸術性を具えていた。

淡江大学マスコミ学科に進学してからも芸術への情熱を持ち続け、あちこち展覧会を見て回り、創作を続けていた。

大学卒業後は広告会社のアートディレクターを担当していたが、たまたま出かけたアメリカ西部の自然景観に感動した。大自然を愛する彼女は、リュックを背負って太平洋沿岸からネバダやアリゾナの砂漠地帯、そしてユタ、コロラド、ワイオミング、モンタナのロッキー山脈を歩き、山と海が続く美しい自然を堪能した。

現代美術の雰囲気が濃厚に感じられるサンフランシスコにあって、牟宗瑋は澎湃たる創作のエネルギーを感じた。当時を振り返り「人生は一回限り、芸術創作に打ち込みたかったし、いま仕事を辞めなければ、これから辞められなくなる、チャンスがそこにあると思いました」と語る。

彼女はヨセミテ国立公園に招かれ、2012年からここでパステル画を教えている。

サンフランシスコで創作意欲を触発

そこで何の計画もないまま、カリフォルニア州立大学美術学科入学を申請し、版画や陶芸などの課程を初めから学びだした。

美大で学んだことのなかった牟宗^٣は、自分の創作を特定の様式やスタイルに限定することはなく、様々な素材に触れながら作品に自然観察を取り入れた。陶芸作品はモダンで前衛的で、奔放な本質を反映している。現在、City Art Galleryに展示されている人体塑像は、フェミニズムについての思考であるが、創作のインスピレーションについて「創作の大部分は人生経験がもたらすものです」と言う。

ヨセミテ渓谷のスリーブラザーズ。

創作は生の在り方から

アメリカに居を定めてから、20数か国を回り、カメラを手に多くの町の独特の風景を記録してきたが、その中でも特に千変万化の自然の姿に心を打たれた。

気温40度を超える灼熱のエジプトで、ピラミッド周辺に散らばる遺跡の破片を仔細に眺め、古代エジプトの精巧な技術を想像した。またバックパッカーとして、南アフリカの野生動物公園にキャンプしながら、テントから動物の気配を感じ、朝は動物の足跡を頼りに、カメラでその自然の姿を捉えてきた。

牟宗瑋の創作は、旅の中からインスピレーションを得てきた。そして現在、新しい素材を創作に取り入れ、廃材を利用し、レーザーで表面に網目などを刻印してから、何層も顔料を重ねていくレーザー彫刻画の技法を生み出した。

「廃材は形が様々なので、組み合せて作品の基礎を作ります。材質や木目の多様さが基調で、独創的な着色技法も不断に模索した結果です」と、新しい創作の発見について語る。

ヨセミテ渓谷のスリーブラザーズ。

新しい素材のレーザー彫刻

牟宗瑋にとって、芸術は日記である。生活や周囲に見るもの、体験の中から、人や文化、様々な生の在り方を目にすることができる。

牟宗瑋は、創作がもたらす喜びを分かち合う。共同で作業する芸術創作の場において、夜中まで板を切り張りする彼女の姿が見られる。板を理想の形に繋ぎ合わせると、次はプログラムで設定したレーザーを使って板に焼き目を刻印してから、各種の顔料を何層も塗り付けていく。色と色がぶつかり新しい色彩を生み出すが、その過程を見ていても、傍からは何を表現しようとしているのか想像もつかない。しかし、創作に熱中する姿を見ながら、作品が完成してみると、その成果は驚くほどのものがある。作品の前に立ち、レーザーの刻印の一つ一つと色彩の組合せを眺めていくと、思わず見入ってしまうほどである。

2012年からヨセミテ国立公園のアーティスト･イン･レジデンスとして、今では公園で最も人気のある芸術家になっている。毎年、国立公園には絵画の手ほどきを受けた観光客が感想を寄せてきて、彼女のおかげで国立公園のもう一つの見方を知ることができたと感謝するのである。

牟宗瑋の作品は、生活を直接観察することから始まる。単身アメリカに赴き、サンフランシスコ独自の芸術的雰囲気の中で創作を続けている彼女は、自分の力を頼りに世界トップクラスのギャラリーが立ち並ぶエリアにまで進出した。この地の女性芸術家協会が毎年開催するイベントにも参加し、芸術創作のおかげで世界を旅する夢をかなえることもできた。彼女が台湾から持ち込んだ情熱と創作エネルギーは、太平洋の彼方で花開きつつある。

ジャマイカ旅行の際に、現地の子供たちを描いたパステル画。

牟宗瑋は絵画の才能を活かしつつ各国を旅してきた。写真は2016年、メキシコの版画芸術村にアーティストとして駐在していた頃。

牟宗瑋はアーティストとしてさまざまな革新に取り組んできた。写真は廃材をカットして貼り合わせ、レーザー彫刻を施してアクリル絵の具を塗った最近の作品。（荘坤儒撮影）