違法漁業取締の最前線
一心に漁獲を見つめるのは、買付け業者のほかに、漁業署の検査員がいる。経験6年の易智健は、検査員6人からなるチームを率いる。漁船の荷揚げ作業が始まる前に現場に到着し、カメラを2組設置して、作業を最初から最後まで監視する。「これほどの人数で出動するのは、この運搬船が、台湾の複数の漁船の水揚げを同時に運んでくるからです。荷揚げは大勢で行われ、いくつもの冷凍コンテナやトラックに同時に積み込まれるので、全ての車両が確実に計量していることを確認します。また、漁獲が制限された魚が枠を超えて捕獲されていないか統計をとっています。太平洋ならメバチ、インド洋ならキハダです」
検査員は船首の国際海事機構(IMO)船舶識別番号と中国語・英語船名を確認し、申請された船舶と照合し、なりすましを排除する。別のスタッフは魚艙で、艙口が施錠された状態から開かれたことを確認し、また、捕獲が禁じられたヨゴレザメやツマグロなどが艙内にないか確かめる。
易智健は一年前には台湾遠洋漁船に乗船して半年から1年出航する漁業署の観察員だった。投縄・揚縄から始まり、漁獲を日夜記録する。魚類の体長や重量も記録していく。学術研究と遠洋漁業の漁獲データの精密な情報により、世界の海洋水産資源の変動の判断の根拠を提供するほか、同時に、海鳥やウミガメなど混獲されやすい種を誤って捕獲していないか、違法な漁獲の転載(フィッシュロンダリングとも言う)や、割当枠超過などがないか監督する。
乗船検査が、易智健の海上勤務の記憶を呼び覚ましたようである。「初めて漁船に乗って海に出たら、半年で10kg痩せない観察員はいません。ふざけて『マリンダイエット』と言っていますが、環境に馴染めないのが原因です。天性の船乗りではなく、船の食事は缶詰か辛いものか揚げ魚ですから、食べるほど痩せるんです。大「鍋」(皿ではない)いっぱいの刺身もよく出ますが、たいていはサメの食べ残しです」
「物資補給が1ヶ月遅れたこともあります。船にはもう白米しかなく、あとは海の魚です。補給船が来て、台糖の棒アイスを食べたときは、感動して泣きそうでした」海に出て5年の間、易智健は100トンのマグロ延縄漁船についていたことがある。インドネシア人船員と8人部屋にすし詰めになって、幅の狭い雑魚寝の寝床で休む。徐々に漁船の仕事に詳しくなり、3交代制・24時間体制の漁業の辛さも知った。特に、どんな危険が待ち受けるかわからない海で、漁を監視し、船長と対立する立場にいるのは大変なことだった。
政府漁業署によると、台湾は世界20位の漁業大国である。南方澳漁港は遠洋漁業の重要な基地のひとつだ。