客家の精神を表現する駅舎
2015年末に開設された苗栗、彰化、雲林の3駅は、それぞれ華業建築師事務所を主宰する建築家の薛昭信と、大元建築工場創設者の姚仁喜が設計したもので、いずれもグリーンビルディングであるとともに、地域の特色を反映させたものとなっている。
苗栗駅を設計した薛昭信は、高速鉄道の台中烏日駅も設計している。今回、苗栗駅の設計を請け負うこととなった後、「苗栗は客家の人々が多く暮らす地域だが、客家の精神とは何か、どう解釈すべきか?」と考えた。自らも客家である薛昭信は、当時描いたたくさんの設計図のラフを広げる。その中には台中烏日駅のコンセプトをそのまま用いたものもある。高速鉄道のスピード感と台湾南北をつなぐ駅としての機能を考慮し、織機のシャトルのイメージをコンセプトとしたものである。
薛昭信のチームは幾度もブレーンストーミングを繰り返した。高速鉄道はすでに開通から10年を迎えており、「スピード感」というコンセプトは新しいものではなくなっている。また、気候変動に直面する現在では建築物の機能についても考え方が変わってきた。そこで薛昭信は、建造物は大自然との調和を重視すべきだと考えた。
10年を超えるグリーンビルディング建設の経験を持つ薛昭信のチームは、従来の「駅舎」という概念を取り払い、初めてスマート・スキンを運用し、エネルギーを節約しつつ冬は暖かく夏は涼しい「呼吸する」駅舎とすることにした。
彼らは、駅舎が置かれる苗栗県後龍鎮の、日照の角度を研究したところ、屋上と南面の日差しが最も強いことがわかり、屋上に太陽光パネルを取り付けた。これで駅舎に電力を供給できるだけでなく、日よけの効果もある。
駅前の景観公園には雨水回収再利用の機能が備えられており、オオバナサルスベリやアブラギリやムクロジの仲間といった地元の植物が植えられた生態公園でもある。公園には風の温度を調節する機能もある。例えば、夏の熱い風は後龍渓や北勢渓、景観公園などを通る際に冷却されていき、それが建築物の温度を下げるため、駅舎の省エネ効果も高い。
屋外の歩道の上にはガラスの雨除けがあり、ここにも工夫が凝らされている。客家のシンボルとされるアブラギリの花と葉を四種類にデザイン化し、それを組み合わせてあるのだ。陽が差すと、まるでアブラギリの緑陰を歩いているかのようで、見上げればその花の合間から青空が透けて見える。苗栗らしいイメージが散りばめられ、味わい深い。
駅のホールは動線が非常に分かりやすい。エントランスを入るとすぐにエスカレーターとエレベーターが見え、プラットホームへ向かうエスカレーターは12の駅の中で最も長いものだ。また「光」が案内役となっていて、標識を見なくても乗車方向が自然に分かるようになっている。すりガラスなので、スカートでも下から見られる心配はない。薛昭信は、公共建築には多くの標識は必要ないと考えている。駅にはシンプルな自明性(セルフ・アイデンティフィケーション)があるべきで、それによって旅客はゆったりと空間や建築の特色を楽しめる。
高速鉄道苗栗駅が完成すると、地元住民に好評を博した。建築デザインには客家の「勤倹」の精神が表れており、これが高く評価されてグリーンビルディングの「ダイヤモンド級」の認証も取得した。
高速鉄道雲林駅を俯瞰すれば、同じ形の柱や屋根のパネルを通して建築家・姚仁喜が表現した光と影のイメージがよくわかる。