異質なものがぶつかり交流する
「最も難しいのはやはり言語の問題でした。言語は言語であるだけでなく、文化面でも言葉のスピード面でも差異があります。それでも、こうした状況はむしろおもしろい点だと思いました。言葉が通じないからこそ、コミュニケーションとは何か、と真剣に考えることになるのです」と王嘉明は語る。
鳴海康平はこう観察する。「台湾の役者の感情は表に出ますが、日本人は感情の処理を表現する時、心の中では巨大な波が起っていても表からは見えにくいものです。この点で、双方の役者は大きく異なると感じました」
こうした相違があるため、王嘉明は脚本を書く時に、役者の組み合わせをいろいろと変えてみた。演技や声質の違いを見たのである。「これは一つのリズムで、そこで生じる化学変化が私にとっては大切です。違いは必ずあるもので、その違いをいかに活かすかが重要なのです」
こうした違いは舞台上の化学変化をもたらしただけではない。通訳も兼ねた陳汗青によると、稽古を始めた当初は通訳がいなければ互いの考えを理解できなかったが、しばらくすると、陳汗青が一言訳しただけで鳴海康平は「わかった」と目で合図してくれ、それ以上訳す必要はなかったという。そして仕上げの時期になると、役者と役者の間にも暗黙の了解が生まれ、身体や気持ち、目などでのコミュニケーションが可能になった。陳汗青にとっては、興味深い発見だった。
鳴海康平は「日本人は感情を抑え込むので、観客の反応を読み取るのは難しいのですが、台湾の観客は入場した時から期待感を表情に表し、楽しんでくれていることがわかるので、安心しました」と語る。
2018年、Note Exchangeプロジェクトは3年目を迎えた。王嘉明と鳴海康平は、侯孝賢が日本の映画監督、故・小津安二郎に敬意を表して制作した映画『珈琲時光』を土台にして3年目の作品を作ろうとしている。
鳴海康平が、3年目のチャレンジは、過去2年の経験と暗黙の了解をもとに、どのように新たな表現手法を生み出すかだと語るそばで、王嘉明は頭をかきながら、「最大の問題は、どうすればいいのかまったく分からないことです」と言って大声で笑った。
二人の演出家のまったく異なる反応から、鳴海康平がインタビューの中でこう語ったことを思い出した。「演劇は、差異を表現する最良の媒介です。言い換えれば、演劇は差異によっておもしろいものになるのであって、それこそが共同プロジェクトで最もおもしろい部分です」この言葉からも、3年目の作品への期待が高まる。台湾と日本との共同プロジェクトで、どのようなおもしろい火花が散るのだろうか。
家庭内での普通の会話が監視の対象となる。三人姉妹の兄であるウィンストンは、大企業がいたるところで監視しコントロールしているのではないかと疑うが、家族や友人は考え過ぎだと言い、もっと社会に出ていくように勧める。
この作品『1984,三人姉妹の日々』は台湾の「SWSG」と日本の「第七劇場」が始めたNote Exchangeプロジェクト2年目の作品である。
台湾と日本の役者が共演し、舞台では中国語と日本語が飛び交った。
差異があり、暗黙の了解もあり、今回の国際共同プロジェクトはよりおもしろいものとなった。
『1984』の「監視」というテーマを『三人姉妹』の日常に組み入れると、グループそのものが監視者となる。
円形の舞台空間が人間同士の際限のない監視を際立たせる。
円形の舞台空間が人間同士の際限のない監視を際立たせる。(荘坤儒撮影)