人生に溶け込んだレシピ
「私の『食譜演化運動』シリーズの第1作は、キュレーターの黄義雄さんに招かれ、苗栗の客家の集落で完成したものです。彼は私の人生の恩人です」程仁珮は今年初めに台北市忠泰美術館で同シリーズの代表作を展示した。どの作品にもそれぞれの人生の物語があり、遠く台湾に嫁いできた寂しさは、故郷の味で癒されるものだ。
「鏡山境」は、客家料理でよく見られる塩豚、紅麹、腐乳に、ベトナム料理の春巻きの皮やエビ塩といった食材を合わせ、ある幸せな物語を映し出した。山の多い苗栗は、ベトナムから来た花嫁にとって故郷のタイニンに似ており、知らない土地への不安を和らげてくれる。夫のやさしい気遣いもあり、幸福な家庭を持てたし、自分を娘のようにかわいがってくれる姑も、できるだけ似たような食材を探してきてはベトナム料理を作って食べさせてくれる。今やベトナムに里帰りしても姑の作る料理が食べたくなるほどで、それはすでにふるさとの味になった。
「心を開いて人生を語ってくれた人たちに本当に感謝しています」という程仁珮は、作品「一院香」では、中国山東省から台湾に来た女性の終日涙に暮れるような毎日を表現した。物質的には憂いのない暮らしでも、外部とつながりのない鬱屈した毎日で、はけ口もない。慰めと言えば子供の頃の温かい思い出だ。彼女を一番可愛がってくれた養父は、農家の貧しい暮らしの中、トウモロコシの髭をお湯に浸して飲むのを憩いとしていた。作品に用いられたコンクリート壁の断片は、貧しくも温かかった実家の象徴だ。太い剣山は針のむしろに座るような現在の居心地を象徴し、トウモロコシ髭茶のほのかな香りに彼女の思い出を込めた。また、トウモロコシの粒を針金でつないで屹立させ、愛のために苦労も耐え忍び、それが報われる日を待つという健気さを表した。
「初秧芽」には、食材は単なる媒介に過ぎず、作品の持つ味わいこそが目的だという、程仁珮の美学が見て取れる。ポーランドから来た女性の物語だ。ザルのように編んだ花ニラの後ろに色鮮やかな布が置かれている。これは女性の妹が贈ってくれたというポーランドの人形を表し、祝福の意が込められる。ご飯に混ぜた豚肉は、台湾に来た当初、肉を食べられなかった女性が台湾人の夫の気遣いや励ましの下、暮らしに溶け込んでいったことを示す。唯一、故郷の食材に似ているという餃子の皮は、ビーツとほうれん草で色を染めて重ね、上に白いチーズとピクルス、蜂蜜ゼリーの玉を置き、台湾と東欧文化の融合を表現した。
食材で心情を表すこれらの作品は、デザインに最も時間がかかる。「巻多情」では手間をかけて肉の煮こごりを作った。雪や氷に囲まれたウクライナの生活風景を表したものだ。「彼女の故郷への思いを結晶させました」という。
すぐ隣国でも故郷を偲ぶ思いは同じだ。「甘露霜」では、日本の両親からの贈り物を配し、実家の親への思いを表した。その横には味噌をベースに緑茶とゴマ油を重ねた日台ブレンド‧カクテルを置き、グラスの縁に危ういバランスで載せられた枝豆と紫蘇は揺れる心情を物語る。
鳳甲美術館の「芸遊味境」特別展で。石牌小学校シニアコースのおばあさんたちが、程仁珮の指導の下、それぞれに創意を発揮する。(林旻萱撮影)