文字に図あり、図に文字あり
漢字の図案化は、現代のデザイナーがよく試みる技法だが、この技法は実は長い歴史を有する。漢字は書として鑑賞されるが、それ以外に伝統工芸でもそのデザインを器物や建物の一部にはめ込んで意匠として運用されることが多い。たとえば磁器や簪によく用いられる如意紋は、女と口を組み合せた吉祥文様である。
文字遊びは漢字の専売特許ではなく、西洋のデザインでも例えば「LOVE」の「O」をハート形にするデザインなどがあるが、それでも唐草デザイン有限公司の胡佑宗総経理は「西洋でも文字遊びのデザインはありますが、漢字は象形文字なので、図案化する上で意味が重層的に、直接的に伝わり、視覚的な記号による表現力を豊かに発揮できます」と説明する。
高一民は友人の海外旅行の時に、台湾と一目で識別できる図案を考案して持ち歩こうと考えた。そこで、台湾の二文字と台湾の島の形を結び付けた「台湾象形」の図案を考案し、そこから台湾象形ブランドを立ち上げた。「四角い文字は図案、アイコンであり、記号なのです。記号は、デザインの重要な要素です」という彼は、この台湾のロゴにおいて、固有の地形である中央山脈、西部の平野、険峻な東部など、台湾の地勢をも表現し、さらに臺(台の正体字)から「吉至」を取り出し、「台湾に吉至る」を表現した。
「台湾象形ブランドのポイントは文化の表現で台湾という場所をいかに知ってもらうかです」と高一民は考える。多様な民族が暮らすこの島で、生き物は統一的に台湾を表現できるイメージとなる。そこで台湾象形の図案にはルリマダラ、クロツラヘラサギ、バショウ、ハスなどの動植物をデザインしたスーツケースのシール、はがき、Tシャツなどの商品を開発した。これを買った人が台湾の図案をもって海外を旅行すれば、それを見た外国人の興味を惹き、そこから台湾を知りたくなるだろう。
文字から図案を引き出す手法も、一連の文字の意味からテーマを濃縮して商品名やブランド名とする手法も、高一民が得意とするデザインである。たとえば、虱目魚(サバヒー/ミルクフィッシュ)という魚の骨からデザインした銀のアクセサリーのシリーズは、「節骨眼(重要なタイミングの意味)」と命名されている。この言葉はタイミングと魚の骨の二重の意味を有しており、しかも漢字の共通の部首を利用して複合文字のロゴを構成していて、漢字の図案化とテーマ化の二つの特徴を有する。
図案への想像力と、漢字の豊かな素養を基礎に高一民の文字遊びは絶妙の域に達している。
デザイナーの林国慶は、別のタイプの特異例であろう。多くの企業のブランドマネジメントを行う彼は、「社長の知恵袋」と自称する。毎年20回以上海外を訪れ、その足跡は世界各地に及ぶ。文化歴史を愛し、寺廟や歴史的人物の由来から文化の起源を遡り、デザイナーらしく記憶を図案化して知識を自分のものとしてきた。