現代デザインとの出会い
張雲帆と劉立祥は当初、台湾科技大学の董芳武教授に従って集落にやってきた。それから長年に渡り、多くの芸術支援プロジェクトを実施し、集落の文化と工芸技術を発掘してきたが、成果が上がってもプロジェクト終了と共に終わってしまい、持続的に残すことはできていなかったという。「多くの文化や物語を発掘しても、それを産業化することができませんでした」と、張雲帆は解決すべき問題点を話す。
吉安郷のアミの集落出身のTipus Hafayは、台湾大学都市田園研究所を卒業し、台北で5年間働いてから、ようやく花蓮・台東の伝統産業指導の職を得て、故郷に戻った。
そのTipusの紹介があって、台湾科技大学のチームは港口集落に入った。その初年度の2013年には、流木アートの創作者との協力を開始した。それが1年を過ぎて、芸術家は芸術創作に専念すべきで、芸術と産業化とが両立しないと悟ったという。そこで2年目は工芸家との協力を目指した。「工芸はデザインを特性としていて、生活に必要なものの生産を目指します。多くの人が編み細工をできるし、参入の難易度も低いでしょう」と、張雲帆は説明する。こうしてSumiのシュロガヤツリを素材とした工芸を目にして、これはまさに台湾らしい工芸品ということで、チームの共同制作の対象となった。Sumiは「シュロガヤツリは湿気に弱いのですが、これを照明と組み合せると、光と熱がカビの発生を抑えます」と話す。
プロジェクトチームは集落に長期に渡って住み込み、住人と寝起きし、畑仕事や漁の役には立たないものの、傍らで見聞きし、集落における生活の姿を観察した。また、Sumiと共にシュロガヤツリの加工と編み方の技法を学び、編むのに必要な時間と発展の可能性を研究した。
劉立祥は「集落に住み、毎日海や山を見ていると、自然に波の形状を作っています。浪草ランプは角度によって見え方が違い、波のような動きとリズム感を生み出すのです」と、菱形に二つの半円を加えたシンプルな幾何学図形を組み合せた浪草ランプのモダンなデザインを説明する。台湾東部の陽光を吸収したシュロガヤツリは、波の形状に整えられ、現地の自然を組み込んだデザインとなった。しかし、デザイナーは先住民風のデザインを敢えて採用せず、どの空間においてもしっくりするようなデザインを心掛けたという。その製品のランプや名刺入れ、物入れの箱など、どれもシンプルで日常の卓上に溶け込む。
「私たちのデザインは派手に目立つのではなくすっきりとまとまることを目指しました。それは意外と時間がかかるものです」と劉立祥は言う。編み表現の展開と、将来的な量産化の必要性を考慮し、デザイナーは製品の目立つ部分に手編みをデザインし、それ以外は定型化してコスト削減を図った。
浪草ランプは設計から試作へと開発が進むにつれて、開発チームはシュロガヤツリ製品シリーズで市場の動向を探ろうと考え、Kamoaro'anブランドでクラウドファンディングを実施した。「その当時は単純で、クラウドファンディングで成功すれば、そのアイテムは市場性があるだろうし、成功しなければ、それで終りと思いました」と、Tipusは言う。
そのファンディングで、当初は20万台湾元を募集目標としたが、わずか12日で達成できてしまったのである。
Kamaro'anとは、アミ語でみんなに「こちらにどうぞ」と呼びかける言葉である。張雲帆によると、Kamaro'anにはさらに「一緒に住もう」の意味もあるという。ブランド確立に成功すれば、集落出身者に故郷に戻れる雇用を生み出せるというのが、奥に隠された願いである。
2015年にクラウドファンディングに成功し、受注を開始したが、量産の問題に直面した。Sumiは早くからシュロガヤツリを備蓄していたが、素材の加工には夏の太陽での乾燥が必要だった。それでは時間がかかるので、乾燥機での乾燥を試してみたが、乾燥機では茎の水分を抜いても、中まで完全に乾燥させることはできなかった。天日干しを行わなかったランプのシュロガヤツリにカビが生え、ロットすべてを廃棄したこともあった。この経験からSumiは天日干しが必須だと確認したのだが、乾燥機の倍の時間をかけないと、完全には乾かないのであった。
何回も試作を重ね、シュロガヤツリ製品の製作は、2016年になって軌道に乗り始め、集落との協力体制が整っていった。生産工程を集落に残し、生産ラインを担当させ、シュロガヤツリ製品販売の利益は、集落の職人が4割を受け取る。文化が生み出したものは、将来に渡って文化に用い、集落のために地場産業を確立し、安定した雇用を創出して文化を受け継いでいくのである。
Kamaro'anブランドは、2年余りでパリ、日本、バンコク、香港、ミラノ、フランクフルトなど国外の見本市にも参加し、フランス、イタリア、スペインなどからも受注した。国際見本市で脚光を浴びると、ニューヨーク現代美術館から博物館グッズとして三角形のバッグが選定され、台湾デザインと工芸品の実力を示した。
Sumi Dongiはシュロガヤツリを復活させ、アミ族伝統の編み工芸を再生させた。