観念と実際の方法
これら人権に関わるテーマを見ていくと、注目される人権の焦点が変化していることがわかる。戒厳令解除前後に注目されたのは子供や女性の福祉だった。これらの問題は、社会的なコンセンサスも得やすく、立法も速かったため、最近は大きな社会運動は起こっていない。中には国際標準の先を行く制度も整っている。
子供の人権を例にとると、義務教育の普及率や予防接種などの指標は世界をリードする地位にある。
1973年に成立した「児童福祉法」は台湾で最初に制定された社会福祉法規であり、「子供は親の私有財産ではない」という概念を明確にした。
成立から40年の間に児童福祉法は二度にわたって改正された。1993年には、児童虐待やネグレクトなどに関する内容が加えられ、その概念が国民の間に普及し、今では虐待や育児放棄などが疑われる時、多くの人が能動的に通報している。
2011年、「児童福祉法」は「児童および少年の福祉と権益保障法」と名称が変り、受身で子供を守るのではなく、積極的な予防措置が採られるようになった。リスクの高い家庭を早期発見し、親に薬物依存や精神疾患などが見られる時は公権力が積極的に介入し、家庭状況を改善して児童虐待を防ぐ。
「虐待や性的侵害の通報件数が増加しているのは、悪化しているのではなく進歩だということを多くの人が理解しています。児童への関心が高まっていることを示しているのです」と国立師範大学ソーシャルワーク学研究所の彭淑華教授は言う。そのため、すでに「児童の人権」という言葉が使われることは少なく、問題の核心が直接議論される。
最も顕著なのは、学校での「いじめ」が非常にデリケートな問題として扱われるようになったことだ。2012年9月、ある大学教授の娘が長期にわたるいじめを受け、裁判所に直接4人のクラスメートを訴え、教育界に衝撃をもたらした。
「社会の変化が速すぎ、学校や教員、生徒や親の間でどう解決すべきかが複雑な課題となっています」と彭淑華は言う。
女性の権利に関する法令も急速に進歩してきた。結婚後の住所、子供の姓、既婚女性が自分の財産を持てることなど、すでに男女平等が実現している。そのため現在では逆に男性の権利に関心が寄せられ、シングルファーザー支援や男性の育児休暇などが新たな議題となっている。
女性の権利保障から、さらに進んでジェンダーの問題へも関心が広がっている。同性愛者同士の結婚や学校におけるジェンダー教育などが、社会運動の新たなテーマとなった。
近年、台湾では社会運動が再び盛んになり、さまざまな人権を求める声があがっている。