一人ひとりに尊厳を
美善基金会の設立趣旨に「尊厳を一人ひとりに」とある通り、すべての人は平等であり、障害のためにその権利を失ってはならない。
例えばスポーツである。基金会では台南市の委託を受け、台湾初の心身障害者用フィットネスセンターを設けた。広々としたバリアフリー空間に障害者のために設計された器具が並ぶ。理学療法士と作業療法士によるチームが、一人ひとりの状況によって運動計画を立てる。
センターでは、ズンバ、ピラティス、ディスクゴルフなどのカリキュラムのほか、車椅子でのスポーツもあれば、視覚障害者のためのカリキュラムもあってスポーツを楽しめる。
ペーター神父が奉仕するのは美善基金会の障害者だけではない。移動ができない重度の障害者のために、訪問入浴サービスも提供している。寝たきりの高齢者や障害者は、自宅の設備や介護をする人の体力などの関係で入浴は難しく、身体をタオルで拭くことしかできない。
そこでペーター神父は資金を募り、専用の入浴車を造った。日本から特製の浴槽を取り寄せ、貯水や加熱の設備を取付け、看護師と介護職員2名が1組となって、海へ山へ、自宅での入浴サービスを待っている人のところへ向かう。入浴など難しいことではないと思われるかも知れないが、実は非常に多くのことに注意しなければならない。体力を使う仕事であると同時に、まず看護師が患者の状況を判断し、傷口があれば防水処置をし、それから注意深く患者の身体を持ち上げる。浴槽に入れる時には、患者の意識の有無にかかわらず、職員は優しく声をかけて今なにをしているかを説明し、患者を尊重する。
患者の家庭の状況や経済状況はさまざまで、スタッフはそれぞれの家の空間や設備に対応しなければならない。家が狭い場合は、屋外にテントを張ることもある。こうした仕事は、優しい心がなければ続けられるものではない。
全力で弱者に奉仕するペーター神父の精神は美善基金会の仲間にも伝わっている。入浴サービスを行なう時、患者の家庭の経済状況や居住環境が良くないことがわかると、スタッフは能動的に彼らのためにリソースを探し、ベッドを交換したり、医療問題があれば医師に支援を求める。入浴サービスを受ける人の多くは、初めての時は身体をこわばらせるが、しだいにリラックスして入浴を楽しむようになる。言葉で表現されないこともあるが、スタッフは彼らの表情が穏やかになることに、自分の仕事の価値を見出す。
発達障害から心身に障害を持つ青年、そして寝たきりのお年寄りまで、ペーター神父にとっては一人ひとりが愛すべき存在である。それは神父が以前、瑞復益智センターのためにデザインしたマークにも表現されている。花びらの折れた蓮の花のマークだ。「彼らはこの蓮の花と同じように、完全ではなくてもそれぞれに美しいのです」と語る神父は、一人ひとりに愛を注いで尊厳ある人生を送れるようにと願う。美善基金会のさまざまなサービスを通して、台湾に美と善意に満ちた社会を築いているのである。
光明早期療育センターで、ユーゴ・ペーター(呉道遠)神父は愛情をこめて子供たちの成長に寄り添う。(林旻萱撮影)
美善基金会は日本から移動入浴設備を取り寄せた。介護スタッフが優しく身体を洗い、お年寄りはリラックスして入浴できる。(美善基金会提供)
ワークショップの知的障害を持つ青年たちの作品。機会さえ与えられれば美しい作品を作ることができる。