桃園特別支援学校では創立記念日の活動が行われ、楽しい雰囲気に満ちていた。一部の生徒たちはグラウンドで一輪車の演技を観賞し、一部の生徒は教室で授業を受けている。学校が順調に運営できているのは、各界から絶えず資源が投入されてきたからだ。

担任の先生に話を聞いてみた。担任は学級だけでなく個別の生徒のケースワーカーも務めている。生徒の家庭状況を見ると、社会的弱者であることが多く、高額かつ経常的な医療費は多くの家庭にとって非常に大きな負担となる。そこで第一線に立つ担任教員は、教育だけでなく、家庭のための支援も手配しなければならない。

数千から数万元の奨学金は、大きな額ではないが、急場しのぎにはなる。ただ、民間の奨学金の資源は多いものの、主に各機関から学校に文書が届き、それからネット上に公開されるため、情報が分散してしまい、見過ごしてしまうことも少なくない。情報に気が付いても、条件が合うかどうかなど一つひとつ確認しなければならず、時間がかかるし神経も使う。

この問題を解決してくれたのは、台湾公益組織教育基金会が設立した「台湾奨学金情報プラットフォーム」だ。ここに各界からの支援情報がすべて統合されるようになったのである。

奨学金は貧しい家庭の子供たちが学ぶ助けになる。

事は人がなす

奨学金プラットフォームの構想は、アイディアから完成まで30年の縁の積み重ねだった。物語は中国文化大学社会企業管理学大学院修士課程の王振軒教授から始まる。

現在は大学院の所長も務める王振軒は、台湾公益組織教育基金会の創設者で董事長でもある。南投県埔里で育った彼は、子供のころから奨学金を受けてきた。中学の時は成績は普通だったが、ロータリークラブの奨学金を受け、米国の大学院への公費留学も実現した。

1991年、王振軒は多くの留学生と同様、授業の合間にアルバイトをした。幸い、レストランのウェーターや図書館ではなく、大学の財務部での仕事に就くことができた。

自由主義のアメリカでは、子供が高校を卒業すると、成人したものと見なし、6割の学生は高い学費と生活費を自分で賄わなければならない。アメリカの大学では、こうした学生のニーズに応える支援を行なっている。大学財務部での王振軒の仕事は、そうした学生の条件や背景によって、ファイリングされた奨学金資料の中からふさわしいものを探して提供するというものだった。

その後、大学教員になってからの教育の重点を「利他」に置き、個人の名義で基金会を創設して公益教育に力を注ぎ、また学生たちのために奨学金プラットフォームを構築したいと考えてきた。しかし、長年にわたって行動に移すきっかけがなく、大学を移ったり公務機関に勤務するなどし、5年前に大病を患ったことがきっかけで、ようやく決意したのだという。

冠動脈バイパス手術を受けて命拾いした王振軒は「考え方が以前とはまったく変わりました」と言い、早くやらなければと考えた。

プラットフォームには1万件近い奨学金情報が集まっており、条件を入力することで精確に検索することができる。

奨学金の背後の物語

「どの奨学金にもそれぞれ物語があります」と王振軒は言う。現在、プラットフォームには9000件以上の情報があり、その一つひとつが台湾社会の目に見えないパワー、社会を前進させる動力であることがわかる。

例えば、先輩が同門の後輩を育成したいと設立されたものがある。教育家の英千里は台湾大学外国語学部で教鞭をとり、輔仁大学の設立にもかかわったことから、両校の関連学科の学生のために奨学金を設けた。企業家が設立したものもある。林麦公司を創設した任江履昇は、上海に生まれたが台湾で起業し、台湾の貧しい家庭の学生のために奨学金を設けた。また邱紹亨記念奨学金は、成功大学機械学科に学んでいた邱紹亨が交通事故で亡くなったため、両親が同校の教員や学生たちへの感謝として500万元を贈って設立された。がんで亡くなった周大観の両親は、がんと闘う学生のための奨学金を設けた。

このほかに、寺や廟、企業、同郷会や職業組合などが設立した奨学金も多数ある。

プラットフォームには1万件近い奨学金情報が集まっており、条件を入力することで精確に検索することができる。

検索しやすく使いやすい

奨学金には何百種類もある。基金会の統計によると、全台湾で毎年30万人の生徒‧学生が計30億元の奨学金を受けている。奨学金の多くは元金の利息でまかなわれているため、背後には3000億元以上の教育基金があると見られる。

このようにリソースは豊富だが、これまで台湾には奨学金に関する情報を統合するシステムがなく、リソースは分散し、奨学金が余ってしまうことも多かった。奨学金を支給する側は困り、申請したい学生も条件に合う奨学金がなかなか見つからないという状況が生じていたのである。

こうした問題を解決するために奨学金情報プラットフォームが設けられた。王振軒のアメリカでの経験をもとに、申請する側は居住地域や学校‧学部、学校の成績、特殊な条件（低所得世帯、障害者、華僑学生、新住民、体育または特別な技能、氏族、親の職業組合、生命保険加入者など）を入力することで精確に検索できる。小学生から大学院生まで網羅され、しかも華僑学生や、中国大陸や外国からの留学生まで含まれる。

あらゆる奨学金制度を網羅していく中で、王振軒には感慨深いものがあった。「この社会の多様性や、利他や慈善の精神が最もよく現われているのは奨学金です」と言う。リソースがどこかに独占されたり集中することなく、自由に流通している。民主的で開放的、多様性のある社会では、奨学金は豊富かつ多様であり、それは民間の活力を象徴しているのである。そこで、彼は奨学金の利他の精神に応え、このプラットフォームを外国人学生にも開放することにした。

芝程科技（Marvelous Microwave）の林婉如董事長（左）は王振軒（右）の教え子だ。在学中から経済的に家族を支えてきた彼女は、奨学金プラットフォームの理念に賛同し、事業に成功した今は自ら資金を提供している。

自分のために奨学金を

欧米の学生にとって、奨学金申請はごく当然のことだが、社会環境の違いから、台湾の学生は保守的と言え、9割以上の学生が奨学金を申請したことがない。しかし、教育部の統計によると、台湾の大学生の4割以上が教育ローンを組んでいて、高校時代から負債を抱えている人も少なくない。それでも多くの人は奨学金のことを正しく理解しておらず、特別に成績が良い学生や、家庭の状況などの特殊な条件がなければ奨学金は受けられないと考えている。

しかし実際には、多くの奨学金に厳しい条件は設けられていない。奨学金の大部分は、学生が学業に専念できるよう少しでも支援したいというものなのである。奨学金には資源の流動をもたらすという特性があり、学生が自分のために奨学金を求めるというのは正当なことなのである。

「奨学金の申請は少しも難しくない！」と多くの学生が見方を変え始めた。奨学金申請を通して学生は自己責任をも学ぶことができる。

特別支援学校の教員は、基金会の支援を受けて無料で検索し、貧しい家庭の生徒のためにリソースを探すことができる。

大学生は学業に専念するだけでなく、自ら奨学金を申請する中で、責任ある大人へと成長していく。

寄付によって成り立つ奨学金は、特殊支援教育を受ける生徒たちに勇気をあたえる。