最前線で働く
「着任して間もない頃、スタッフを率いてロープで大尖山に登り、たくさんのゴミを拾いました」と陳栄祥は言う。当時、大尖山への登山は禁止されておらず、墾丁を訪れる観光客に人気のコースの一つだった。「山の清掃が終わると、次は海辺の岩礁のゴミを拾い、その後は海に潜って海底のゴミを集めました」と言う。
環境保全の概念が広まる前、海と陸の生態の最大の敵はゴミや廃棄物だった。「今はずいぶんよくなり、観光客の多くがゴミを持ち返ります。墾丁の今の問題は、海流や風で流されてくる『他の人のゴミ』です。台風の後などは南の海のゴミが岸に打ち上げられたり、浅海に堆積し、一週間をかけても拾いきれません」と言う。
さまざまな機関と共同で海洋生物を保護するのも重要な仕事の一つだ。人間の活動と大自然が衝突することもあるが、現在は台湾の大部分の人が海の生命を尊重しており、最近はカニの安全な道路横断の任務も成功するようになった。
墾丁は世界公認の陸ガニの一大生息地だ。65種以上が記録されており、その多様性は世界一である。毎年旧暦の6月から10月は卵を抱えた雌ガニが命を懸けて墾丁の道路を渡って海岸へ産卵しに行く季節である。墾丁で「カニに道を譲る」活動が始まってから、管制時間になると人々は車を止め、数千にのぼるカニに道を譲り、命を引き継ぐための大移動を見守るようになった。
現在は、9割以上の陸ガニが安全に産卵できるようになり、新しい品種も次々と発見されている。例えばに国立中山大学でカニの生態を研究する李政璋は2020年、国際的な学術誌に論文を発表、5つの新品種に命名し、台湾で初めて発見された陸ガニ2種を発表した。「これは墾丁国家公園が自力でできることではなく、自然を愛する多くの人が一緒に成し遂げたことです」と陳栄祥は言い、人々の考え方は変えられると語る。
空の様子も変わってきた。許書国はこう話す。「墾丁は200種以上の渡り鳥が必ず通るコースです。『守るために距離を置く』という考えが普及したおかげで、今は数万羽のサシバやアカハラダカ、シラサギなどが墾丁で休息を取り、南へ向かう姿が見られるようになりました」
巡視員の仕事で最も辛いのは、ダイバーや観光客の救助である。「海は広く、さまざまな流れがあるので救助活動は困難を極めます。常に注意を呼び掛けていますが、数年ごとに映画の真似をして海に突き出した岩礁から飛び込んで戻ってこられなくなる人がいます。離岸流に流されてしまうのです」と言う。またかつて、大波が来ると呼びかけたにもかかわらず、多くの人が岸から離れようとせず、40~50人が一気に波にのまれてしまったこともある。陳栄祥は地元の業者や漁師を率いて懸命に救助し、なんとか全員を助けることができた。
「その後、墾丁では安全のための強制力のある法令が定められ、ようやくこうした事故は起こらなくなりました」57年にわたって海とともに暮らしてきた陳栄祥は、静かな海に、常に畏敬の念を抱いている。
澎湖南方四島の地元漁師だった林順泰。60年を超える大海原での経験をもって保全巡視員となり、この海域を守り続けている。(海洋国家公園管理処提供/呉明翰撮影)