嘉南平原の濁水渓流域は台湾最大の穀倉で、季節の変化に伴い、広い平原は田植えの新緑から、一面の黄金の稲穂に移り変わる。
彰化県二林に位置する寿米屋企業は、昔ながらの米問屋から経営転換を図ってきた。二代目の陳肇浩総経理は、2005年に大橋稲米生産販売専門地区を設立し、傘下に500戸余りの契約農家が加わっている。その契約農地1000ヘクタールには、コシヒカリ、台 9号、台中194号、台南16号、高雄147号、台南11号など、特色ある6品種を計画生産している。
好い稲を育て、好い米を食す「米屋」
寿米屋企業は台湾米の品種ブランドを確立し、精緻な小分けのパッケージを開始した先駆けである。陳肇浩総経理は2006年に台湾の高級米ブランド「米屋」を打ち出し、スーパーなどの通常の販売ルートを避けて、デパートの高級路線を行くことにした。
「米屋」でも知名度が高く生産量の多い品種がコシヒカリである。コシヒカリは1980年に父の陳俊雄が日本から導入したもので、当時は3ヘクタールの試験栽培だったが、現在は800ヘクタールの規模となった。
台中194号と台南16号は、それぞれこの2年に台中農業改良場および台湾大学と共同で開発した新品種で、発売当初から評価が高かった。
陳肇浩によると、コメは品種ごとに特色が異なり、それぞれに長所があるという。コシヒカリは粒が丸く食感はもちっと弾力と後味の甘味があり寿司に向く。台 9号は粘りと旨味があり、丼物やチャーハンによい。台中194は口当りが柔らかく香りが爽やかで、お粥やお握りに最適である。台中16号は冷めても美味しいので寿司向きだし、高雄147はイモのような香りがあり、あんかけご飯がよい。生産量が最大の台南11号は弁当向きと言う。
さらに水量や炊き方も、米飯の食味に影響する。今年、シンガポールの調理人コンクールで優勝した台湾チームは、台中194を使っていて、その米の味が高い評価を受けた。
「好い稲を育て、好い米を食すというのが、寿米屋の核心的価値です」と、陳肇浩は言う。生産量の多寡や利益率は農家の栽培意欲に影響し、品質は消費者の購買意欲に影響する。寿米屋は農家と消費者の橋渡しの役割を果たし、好い品種を選び「農家の好い稲の栽培に協力し、消費者は好い米を食せるように保障する」のである。
では何か好い米なのだろうか。食の好みは様々だが、市場には一般に認められた判断基準がすでに確立されている。
陳肇浩によると、一般にはアミロース含有量が低め(10~20%)の穀物、つまりモチモチしてコシがあるが粘り過ぎない米が好まれる。
モチモチ感とかコシをどう定義するのかだが、「噛めば弾力があり、歯に粘りがある」と許志聖は言う。品種開発者は、この食感を追い求めているのである。
許志聖が1993年に開発した台 9号は、今でも台湾で最も人気のコメ品種の一つである。その彼がさらに11年の努力を重ねて、2009年に台中194と命名した香り米を開発した。
香り米にはタロイモの香り、ジャスミンの香りとバスマティ(パンダン・リーフの香り)の三種がある。
「台中194は台 9号を親とし、バスマティと交配して開発しました」と許志聖が説明する通り、系譜的には台中194の75%は台 9号から来ているという。「バスマティの香りの要素だけを台 9号に取り込みました」と言葉を続ける。
落ち込んだ時には台中194を食べるといいと、許志聖は自身の経験を語る。バスマティは楽しい香りとして世界に知られており、食べれば気持ちが明るくなるのである。
寿米屋と台湾大学が共同で開発した鹿鳴米(台南16号)は、台湾で初めて分子マーカーを種の選別に応用して2012年に開発した新品種である。台湾大学農業園芸科の胡凱康准教授によると、台南16号はコシヒカリと台農67号の交配種で、分子マーカーを応用して遺伝子を識別し、品種開発の期間を短縮できたという。
稲作は無為を楽しむ——「銀川」
台湾東部の花蓮県富里は、有機米の生産基地である。6月下旬から7月下旬は花蓮や台東県の収穫期。見渡す限り黄金のイネが波打ち、農家の耕作の苦労が天から報われる時でもある。
「今年は暖冬でしたが寒波がたびたび訪れ、収穫は平年より1週間ほど遅れました」と、銀川永続農場の頼兆،/董事長は言う。
銀川永続農場は農家130戸と有機米の契約耕作を行っており、作付面積は300ヘクタール、年産量は3000トンに上り、台湾では規模最大の有機農場である。その生産する銀川米は、台湾で最も知名度の高いブランド有機米となった。
銀川有機米は高雄139を主としており、適地に適種と頼董事長は言う。銀川でも新品種を試したことがあるが、3年を経過すると変異を起こすので、単一品種の方が扱いやすいということになった。高雄139は40年近く前の品種で、産量が多く食感がよく、冷めてもコシがある。
有機米が銀川の看板であり、稲作は無為を楽しむというのがそのモットーである。「自然が重要」と無為を楽しみ、世と争わないのが最高の境地である。「有機栽培の収穫は通常の農法より2~3割少なくなるが、土地にやさしく、無為である方が収穫も増加します」と頼董事長は言う。
収穫は減っても、自然環境が補ってくれる。
通常の農法の水田は生気がないが、有機水田は朝からクモが網を張り、トラフガエルが姿を見せ、時にバンやシロハラクイナが巣を作る。最近では玉山麓の玉里南安集落に位置する銀川の契約農家の一つに、稀少種のヒナモロコが現れ、人心を奮い立たせた。
しかし、有機農業はリスクも伴う。「ここ2年は温暖化のために虫害が急増して、収穫は激減しています。何からの資材を投入して、農家をサポートする必要があります」と彼は頭を振る。
元々農家出身の頼兆،/は、農作業の苦労をよく知っている。「農作業は季節に合せて進行し、寒い時に田植え、暑い時に収穫しなければなりません。とくに有機農業は除草にも施肥にも労力がかかり、有機農業の肥料は、通常の化学肥料の20倍も必要なのです」と説明する。
しかも、農業全体でも人手不足が深刻である。銀川でイベントがあると、70歳以上の高齢農家で観光バスが一杯になってしまう。
それでも、頼兆،/は台湾の有機米のトップブランドを支え続けている。粘土質の花蓮は排水性が悪く、水稲栽培にしか適さない。しかし、水稲栽培は単なる穀物生産だけではなく、土壌保護の重要なシステムを形成する。「1ヘクタールの水田の気温調整能力は、エアコン数十台分に相当します」と頼兆،/は言う。
食卓に一日も欠かせないのに特に注意されてこなかった米という農産物に対して、稲作産地から遠く離れた台北にあって、「掌生穀粒」と名付けられた企業がクリエイティブなマーケティングを試みた。米を少量パッケージしたデザインは、この2年で次々とドイツのレッド・ドット・デザイン賞とアジア最高影響力賞を受賞し、各界から注目を集めた。
創意ある米食文化を——「掌生穀粒」
掌生穀粒ブランドの創設者・程دم儀によると、会社としては最初から米をギフト商品として位置づけ、台湾の食を国際的に紹介しようと考えていたという。
米は台湾を代表するギフトになると程دم儀は言う。台湾を訪れる旅行者にとって、台湾独特の味わいを有する米はお土産に最適である。
掌生穀粒のシンプルなデザインは人気が高く、中でも賑やかな雰囲気のプリント生地のパッケージが人気である。美しいパッケージに、贈られた人も開けるのを惜しむという。
程دم儀によると、パッケージを損なわないように底に穴をあけて少しずつ米を出す人もいるし、また開けるのが惜しくて1年も飾って置き、開けてみたら虫が湧いていたという人もいるそうである。虫の湧いた米をどうしたらいいのかと電話で問合せを受け、程دم儀は新しいパッケージと交換した。「贈った人は美味しい新米を口にしてほしいと思ったでしょうから」と、彼女は話す。
外省人第二世代である程دم儀の子供時代はまだ米の配給切符があり、配給米は美味しくなかったと話す。30歳で結婚してから、姑が台東県で収穫したばかりの新米30キロを送ってくれて、初めて美味しい米を味わうことができた。
2006年に夫婦で台湾独自の製品を売り出す起業を考えた時、頭に浮かんだのは普段は売り場に並ばない米であった。そこで、経験のある国際ブランドの手法を応用しようと思った。
産地から遠く離れた大都会にあって、都会風のパッケージやコピーで新しさを出した程دم儀のギフト米は直ちに注目され、お土産や披露宴の引き出物、法人向けギフト市場を開拓した。
「米を詰めた甕は結婚式のお祝いに最適です」と程دم儀は新婚夫婦に向けた意義を語るが、法人向けギフトとしても新しさが目を惹く。2008年の金融危機において、台湾のある金融機関が一人4パッケージ、計6キロの米を年越し用に社員に送ったそうである。
ニッチな市場で成功はしたものの、掌生穀粒は市場の拡大には成功していない。プレーンな二層のクラフトペーパーに新米を包んだだけのパッケージは特殊で、鮮度のために受注後に精米するため、製品は一般的な流通に乗りにくかった。
それが2014年に、台北市松山のタバコ工場跡の文創園区に出店し、去年は大口顧客を獲得して仕入れを拡大し、さらに香港にも拠点を設けて、経営規模拡大を進めてきた。
一般に好まれる米を開発するというのも掌生穀粒の責任だと程دم儀は言う。農家の利益を優先してきたと言う通り、一時は農家6戸と協力関係を維持し、関山の飯先生、敬農米など、多くの有名ブランドを開発してきた。
それでも消えていった品種もあると、程دم儀は残念そうに語る。例えば、鹿野で優秀賞を受賞した農家の徐さんが世を去ったため、その米も栽培されなくなった。また、いろいろな事情から農家が休耕して消えていったブランドもある。
「台湾にある美しい人、事、物に敬意を表す」が掌生穀粒の企業の標語である。残念なことに、この土地の美しい人、事、物は次第に失われていくが、また不断に生まれていくものである。台湾米の物語も同じではないだろうか。
良い米を作っている農家と消費者の橋渡しをする「寿米屋」。写真中央はその陳肇浩総経理。
有機水田では虫や鳥が鳴き、バンも巣をつくる。 (頼兆炫提供)
銀川米は台湾の有機米のトップブランドである。頼兆炫董事長は、環境にやさしいことが何より大事だと考えている。
ご飯の一口ひとくちが台湾の大地の恵なのだから、大切に味わいたい。(掌生穀粒提供)
ご飯の一口ひとくちが台湾の大地の恵なのだから、大切に味わいたい。(掌生穀粒提供)
「豊米満缸」は掌生穀粒から農家と消費者への祝福である。