天才も努力の結果
幼いころから天賦の才を認められた金希文であるが、天賦の才は長い時間の努力、苦痛に耐えられる能力だと知っている。すべての栄誉は信仰する主から賜ったもので「人の能力には限りがあり、主の御心にかかっています。信仰が私の尽きせぬエネルギーの源です」と言う。
毎日8から9時間を、作曲のため仕事部屋に籠って過ごす生活は、十年一日の如きである。創作においては孤独に耐えるしかなく、その孤独の試練さえも楽しみとする気持ちで、味気ない退屈に遊ぶのである。創作に入ると、1カ月にもわたって誰とも話すこともないそうである。
金希文はまた、しっかりした基礎を築いてくれたイーストマン音楽学校における厳格な教育にも感謝している。実は、博士号を落第となるところだったそうで「ほかの学生は二回の試験で合格するのですが、私の博士号試験は教授が3回受けることを認めてくれました。しかし、次の試験まで1年待たなければなりませんでした」と言う。この重大な試練があって、金希文は厳格な作曲法に注意を向けるようになった。作曲には才能も必要だが、幅広く堅実な理論的裏付けはもっと必要だったのである。
現在、師範大学で教壇に立つ金希文は、平素から学生に「作曲は孤独な苦難の道で、作曲を依頼する人がいなければ、生計を立てるのも難しいものです」と、強い意志で困難に向き合わなければならず、また「作曲家はしっかりしたクラシックの基礎がなければならず、少なくとも1種類以上の楽器、できればピアノに精通している必要があります」と教えている。
最高を求めるのが作曲家の天命であり、作品はすべて独創的な深い意義を有していなければならない。聞くものを感動に引き込み、心の奥底からの共鳴を惹きだせれば、その曲は長く受け継がれるだろう。
「日出台湾」、永遠の恩寵
オーストリアの作曲家マーラーは「一番重要な部分は楽譜には書けない」と書いた。氷山が海面に出るのはごく一部で、巨大な海面下の層は心で会得するしかない。「音楽が表現するのは感情」と金希文は言う。心に愛がなければ聞く者を感動させることはできないからである。
一般に知られた作品「日出台湾」は、金希文の台湾シリーズ組曲の一曲で、故郷に対する深い思いが込められている。この合唱付き交響曲の歌詞は、金希文夫人の盧佳芬の台湾語の詩で、金希文が心から愛するこの土地に対する心情の告白なのである。
これは私たちの心の声、美しい気持ち
美しい台湾を思うのは誰
日の出が台湾を照らし、永遠の恩寵を齎す