台湾の参加型予算
集まっての話し合いはこれまでも行なってきたが、住民集会なども形式的なものになることが多く、結局「話しているだけでは何も始まらない」というのが皆の結論だった。
それが「住民に予算の使い方を決める権利がある」という参加型予算が実現したことで、こうした問題を解決できるようになった。ブラジルのポルト・アレグレで始まった市民参加型予算は、当初は代議制の不足を補うのが目的だった。市民のニーズにより近い形でリソースを再分配し、弱者をケアしようというものである。
参加型予算は海外では30年にわたって行われており、台湾では2014年の台北市長選挙の際に、候補者の柯文哲と連勝文が政見として打ち出した。今日、台湾では主に二つのモデルで行われている。
一つは行政部門が中心となり、首長が予算の一部を拠出して計画として推進するもの。現在自治体では台北市、台中市、桃園市などで行われており、中央では文化部(文化省)「社造2.0」などがある。もう一つは地方の議員が中心となり、議員に配分された枠予算を拠出するというものだ。米国シカゴと同様の方法であるため、シカゴモデルとも呼ばれる。
台湾の参加型予算は百花斉放の状態で、背景も方法も成果もさまざまだ。桃園市で推進された「東南アジア移住労働者のレジャー」をテーマとした計画では各国出身の労働者を集めて討論するという方法を採り、世界的にも注目された。
「参加型予算を推進するにはさまざまな条件が整うことが必要です」と話すのは、台湾で初めて参加型予算を推進した中山大学社会学科の萬毓澤教授だ。資金源と規定の行政手続が必要だが、中でも重要なのはプロセスにおいて質の高い公共討論が行われることだと言う。
台湾で初めて参加型予算を試みたのは議員の陳儀君だ。従来の議員によるサービスと言えば、陳情への対応が挙げられるが、参加型予算では市民の能動的な参画が強調される。「どのような変革が必要なのか、住民が能動的に理解することが重要で、一人ではなく多くの人が一緒に夢を作り上げるのです」と陳儀君は言う。
長年にわたって議員を務めてきた彼女だが、現行の制度では行き届かない部分があり、また問題を提起して行政部門が執行する際も、実際には困難に直面することもある。だからこそ参加型予算を試みようと考えたのである。これを一つの実験の場として、市民の立場から考え、陳情者(提案者)が直接公的部門とコミュニケーションをとれるようにし、官民協力で双方にとって有利な結果を出したいと考えている。
政治は遠い存在なのだろうか。参加型予算は、私たちの日常生活をより良いものにしてくれる。